柔道、ラグビー、組体操・・・青少年のスポーツ事故はなぜ減らないのか? ~感動の誘惑に負けず正しい情報の共有を
青少年スポーツ安全推進協議会 基調講演より
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青少年スポーツ安全推進協議会が10月17日、設立総会を開催した。同協議会は、教育や医療、法律、スポーツ指導者など多様な専門家による知識と情報の共有を図ることで、安全にスポーツができる環境の実現を目指す。

総会に合わせて、静岡文化芸術大学准教授で静岡県教育委員会委員を務める溝口紀子さん(テーマ:スポーツ事故は感動と戦う美学に潜む?ーコーチングから再発防止を考えるー)と名古屋大学大学院准教授の内田良さん(テーマ:スポーツに怪我はつきものか?:組体操、柔道事故から考える)による基調講演がおこなわれた。

スポーツ界全体で動かないといけない

溝口紀子さん(静岡文化芸術大学准教授)。著書に『日本の柔道 フランスのJUDO』など。

「柔道という同じ競技でもフランスは事故がゼロ件、日本はこの30年ほどで120人が亡くなっている。どうすれば強化と安全の両立ができるのか考えるようになった」

溝口さんは今年3月まで静岡県教育委員会委員長を務めるなどさまざまな委員会経験があるが、「結果だけ送られて来る状況ではすでに手遅れだった。重大事故の前にできることがないかと考えたときに、コーチングに行き着いた」と語る。

たとえば、ワールドカップで日本中が盛り上がったラグビー。サモア戦の逆タックルで山田章仁選手が脳震盪を起こし、その後の試合に出場することはなかった。一体なぜか?

溝口さんはラグビーには脳震盪のプロトコル(決まり・手続き)があることを紹介した。

「脳震盪の疑いがある場合、7日間の休養が義務付けられている。過去の死亡事故が多いからか、ラグビーはほかのスポーツよりプレイヤーウェルフェアー(選手保護)の文化がある」

ラグビーでは脳震盪の疑いがある際、「深刻に取り扱う」「プレーから離れて再び参加していはならない」「必ず医学的評価を受ける」「プロトコルに従って復帰する」などの対処法が決められている。また、それらの情報や知識をワールドラグビーのサイトにある「ラグビーにおける応急手当」というページで学ぶことができるのだ。

溝口さんは「すべての競技にこのようなEラーニングが必要ではないか」と提言する。実際、全日本柔道連盟(全柔連)ではラグビーを見習い、脳震盪における競技復帰プロトコルを策定。復帰までに6段階、1週間の安静期間などの項目が決められた。

それでも今年、福岡県と神奈川県で柔道事故が起きている。「東京で活発に活動しても、その思いや矜持が地方になかなか広がりにくい」。全柔連は各都道府県への安全推進委員設置、大外刈りや韓国背負の扱いの検討、YouTubeで安全指導動画の公開など前向きに動くが、課題は残る。

「ひとつは、指導者にどう当事者意識を持たせるのかということ。事故が起きるまで『まさかうちで起きるわけない』と思っていることが多い。二つ目は、親や子どもたちが主体的な意識を持つにはどうしたらいいか。事前に情報や知識を吸収する姿勢があれば、事故の未然防止につながるのではないか」(溝口さん)

そんな溝口さんが多発・反復するスポーツ事故の再発防止に向けて「スポーツ界全体で動かないといけない」との意識をもつようになったきっかけがあるという。