「お受験」は戦前からあった!〜選択される「私立小学校」と選抜される「親と子」の歴史

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(文・小針誠)

「お受験」の歴史

今年もまた入試シーズンが到来しようとしている。

その先陣を切るひとつが秋に山場を迎える国立や私立小学校の入試や受験、よく言われるところの「お受験」である。

有名私立大学や高校の附属小学校の入学競争倍率は5倍10倍当たり前、なかでも慶應義塾大学の系列小学校である慶應義塾幼稚舎の昨秋の入学考査では、144名の募集人数に対して、1532名の志願者を集めた(倍率10・6倍)。同舎は日本全国の学校や大学のなかで、最も入学困難な学校のひとつといっても過言ではないだろう。

その入学考査に向けて、多くの親子は受験対策専門の「お教室」に通い、受験対策に励んでいる。大学全入時代にあって、「刻苦勉励」や「受験戦争」は過去の物語かと思いきや、一部の私立小学校における熾烈な「お受験」「お入学」競争は止む気配さえ感じられない。

特定の私立小学校に志願者が集中するのはなぜか、いかなる理由で私立小学校が選択されるのか。

私立小学校の入学や在学に当たっては、高額な教育費とともに、幼い子どもを遠方の学校に通わせる覚悟も求められる。反面、学校はどのような入学考査をおこない、何を根拠に入学すべき子どもを選抜しているのだろうか。

現在の私立小学校志向や入学選抜考査の原型は、さかのぼること1世紀前の大正期に確立した。19世紀末頃に勃興した一部の社会階層(新中間層)では、通学区内の公立小学校ではなく、意図的に私立小学校が選択された。

一学級70名以上の過大学級のもと管理・統制主義の公立小学校に対して、子どもの個性・自由・自発性を尊重し、一学級30名以下の少人数学級を導入した私立小学校。

また、大正期の学歴社会の成立に伴い、中学校や高等学校(いずれも旧制)の入学競争が激化した当時、一部の私立学校は小学校から大学にいたる一貫教育制度を整え、優先的に、多くの場合は無試験で併設の学校や大学に進学できるようにした。

ところが、私立小学校に人気が集まると、入学希望者は定員を大きく上回り、入学選抜が導入され、知能テスト、行動観察、面接などが実施された。それはまた限られた合格枠をめぐる競争であった。

そのために、母親たちは子どもを受験専門の教室や幼稚園に通園させ、『メンタルテスト問題集』など過去問集を購入・利用し、懸命に入試対策に当たるようになった。

しかし、小学校入試の合否は紙一重。不透明な評価・合否基準ゆえに、母親たちの間で様々な憶測を呼び、なかでも縁故入学の話題や噂には事欠かなかった。そこで一計を案じ、わが子が少しでも有利になるようにと、学校に贈物をしたり、政治家の推薦状を持参して、校長の自宅を訪問する親まで現れた。不合格通知が届けば、差出人無記名で、校長宛に苦情の手紙を送付する母親もいた。

以上はいずれも「お受験」の元祖ともいうべき戦前から終戦直後の話である。