骨抜きの「ノーリターン・ルール」 
官僚のレトリックに騙されていませんか?

原子力規制委員会の事務局、原子力規制庁の職員に「ノーリターン・ルール」が適用されるのをご存じだろうか。

福島の原発事故まで、原発の安全規制は「原子力安全・保安院」という役所が担当していた。「保安院」は、経産省傘下の組織で、電力会社に天下りを送って癒着している原発推進官庁だ。事故を契機に、原発の規制官庁である保安院が、事実上電力会社の言いなりだったと知った国民は驚き、憤った。

そこで、原子力規制委員会という新しい規制機関とその事務局「原子力規制庁」を作って、経産省から完全に独立させることになった。

それを担保するために作られたのが、「経産省の職員が規制庁で働くなら、その後、経産省には戻れない」という「ノーリターン・ルール」だ。経産省に戻れると、復帰後のことを考えて、経産省が喜ぶこと、すなわち原発再稼動のために働くから、それを禁じるために作られた。

しかし、経産省の職員から見ると、「将来の天下りは、誰が面倒見てくれるのか」と不安になり、誰も規制庁には行かなくなる。それでは、原発が動かない。世論からみればそれでいいのだが、当時の民主党政権は困った。労組の傀儡政権と堕した民主党は、表向きは「脱原発依存」とは言うが、実は、電力総連や原発メーカーなどの組合の意向で、原発を何とか動かそうと考えた。

もちろん、当時野党の自民党も原発再稼動に必死だった。

そこで、民主党政権(担当は細野豪志環境大臣)と自民党は、規制委員会設置法に、「法律の施行後五年間は、職員がどうしても戻りたいと言った場合などは、経産省に戻しても良い」という例外を作った。これで、経産省と規制庁の間の人事異動は、事実上フリーパスとなった。しかし、この例外措置は法施行後5年(2017年)で切れる。

そこで、早めに抜け穴を作ろうとした経産省は、そのために法律に入れておいた文言を活用する。それは、「(原発に関わっている)経産省と文科省には戻れない」と明確に断言する代わりに用いた、「原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めない」という曖昧な文言だ。抽象的条文にとどめ、「解釈の余地」を残していたのだ。

9月30日に規制委は事実上、「禁止されるのは、直接原子力の仕事に関与する部署だけで、それ以外の経産省の他の部署なら戻っても良い」という新しい解釈のルールを決めた。経産省に戻ることを認めれば、規制庁で働く間、戻った後のことを考えて、誰でも経産省のために働く。ノーリターン・ルールの意味はなくなってしまった。

これについて、規制委の田中俊一委員長は、「行政官は、きちんと割り切って仕事をしてくれる」と答えた。それが本当なら、元々「独立した」規制庁はもちろん、規制委だって必要なかったはずだ。経産官僚に「真面目に原発の安全規制をやってくれ」と言えば済むと言っているに等しい。規制委のトップが、経産省の言いなりになっているのと同じではないか。

霞が関では、福島の事故が過去のものとなった。原子力ムラは完全復活し、規制委は経産省の完全植民地となったのだ。

『週刊現代』2015年10月30日号より

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