武田砂鉄と藤原新也が語る「わかりやすさ」への抵抗感
〜現在を躍進させる「言葉」を取り戻せ!

第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞したライターの武田砂鉄氏

安倍首相が本のプロモーションにいちばん貢献してくれた

「育ててくれてありがとう」「禿同。良記事。」「全米が泣いた」――20の紋切型の言葉を拾い上げ考察した『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社刊)。同書で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞したライターの武田砂鉄氏は、10月19日の授賞式で次のようなコメントを残した。

「今回の本は、テーマもゴール地点もタイトルもまったく決めずに書き始めました。ひとまず書き終えて原稿が出揃ったときに、言葉について考える本なのか、あるいは社会を見渡そうとしている本なのか、少し悩みました。

改めて原稿を読み返しながら、そのどちらかではなくどちらにも比重を置いている本、今現在流れている陳腐な言葉を考察しながら社会を見通すような本だと気付き、タイトルを『紋切型社会』と付けました。

本の最後の最後に、『言葉は今現在を躍動させるためにある』と書きました。今、世の中に流れている言葉が、肌触りのいい、わかりやすい、納得しやすい、共感しやすいものばかりになっていて、それらに対する苛立ちが強くありました。

刺激的な言葉を投げれば『刺激的ですね』と言われ、不快な言葉を投げれば『不快な言葉ですね』と言われる。なんだかそっくりそのまま受け取られるばかり。でも、そこへ向けて改めて物申したいという気持ちがありました」

「この本は4月下旬に刊行されましたが、そのプロモーションにいちばん貢献してくれたのは安倍晋三首相だと思っています。度重なる国会答弁をすべて紋切型で乗り切ってくださったおかげで、紋切型社会が強固になった。この点のみにおいて、心から御礼申し上げたいという気持ちです。

受賞の言葉にも書きましたが『日本を取り戻す』よりも、言葉を取り戻さないといけない時代に入っていると思います。ましてや『一億総活躍社会』などと提議され、どうやら活躍しなければいけないと強いられ始めた今、私たちがどういった言葉を持ち、どのように対抗していくのかが問われています。言葉を取り戻し、言葉から生まれる思考、その思考から生まれる社会を取り戻さなければならないと思っています」

サービス精神旺盛な文章は読者をナメていると感じる

毎年ひとりの選考委員が受賞作を選ぶBunkamuraドゥマゴ文学賞。今年は作家・写真家の藤原新也氏が選者となり、多数の候補から7作に絞った末、受賞作を決めたという。選評では「この本をカテゴライズするとするなら、新しい意味でのジャーナリズムであるとともに文化人類学の範疇に入るものだろう」と評価している。今回の受賞を記念して、藤原氏と武田氏による対談がBunkamuraにておこなわれた。

まず藤原氏が選考理由を述べた。「この本は一度読んでも何が書いてあるのかよくわからなかったから、二度読んだ。ラップを聴いているような感覚に近い読書体験だった」。決まりきった論理展開に従うというよりは、飛躍や余白のある文章と文体を前にして読み手としても大変だったと感想を続け、武田氏にその意図を尋ねた。