スゴ本の広場
2015年10月22日(木)

なぜ勝新太郎は、日本人に愛され続けたのか
~最後の弟子が明かす、「昭和最後の豪傑」の素顔

田崎健太『偶然完全 勝新太郎伝』

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勝新太郎(1931-1997) 写真:操上和美

日本が誇り、日本人が愛してやまなかった名優・勝新太郎。今年は、代表作のひとつである『兵隊やくざ』シリーズ一作目の公開からちょうど50年となる。勝を慕った人の数は計り知れないが、「最後の弟子」と呼ばれたのが、ノンフィクションライターの田崎健太氏だ。

週刊誌記者時代に勝新太郎の人生相談の連載を担当した田崎氏は、晩年の勝新と濃密な時間を過ごすことになる。知られざる勝の「素顔」をまとめた『偶然完全 勝新太郎伝』が、10月21日に発売された。本書の中から、勝新との強烈な出会いが描かれた部分を特別公開する!

「お前、勝新の連載担当になれ」

1994年、週刊誌が激しい部数争いを繰り広げていた時代。『週刊ポスト』の若手編集部員だった筆者は、ある日突然、部内で閑職的扱いを受ける「連載班」への異動を言い渡される。不貞腐れる筆者はまだこのとき、自分が昭和最後のスターの「最後の弟子」になるとは思いもしなかった――。

週刊誌の激しい部数争いの渦中にいることに愉しみを覚えていたぼくにとって、連載班への異動は屈辱だった。

班異動を告げられた翌日、いつもより早めに編集部に行った。午前中の編集部には人はほとんどおらず、一番前の長机の前で編集長がぼんやりと座っていた。ぼくが机を片付けていると、編集長から手招きされた。

「お前、連載班に回されたと不貞腐れているのか?」
「ええ……、まあ」

ぼくが頷くと、編集長は苦笑した。

「これにはちゃんと意味があるんだ。勝新の連載をやる。そのためにお前を連載班に回したんだ」
「勝新?」

思ってもいなかった名前だった。

「勝新って、あの勝新ですか?」
「そう、勝新太郎の人生相談を始める。他はやらなくていい。勝さんにくっついて、色んなことを学んでこい」

あの勝新と一緒に仕事が出来る。前夜の不機嫌な酒が一瞬にして吹き飛んだ。

勝新太郎の映画をそれほど見ていた訳ではない。ぼくにとって、彼は銀幕の中の俳優というよりも、テレビのワイドショーに出ている男だった。

1989年に公開された『座頭市』は成功し、続編が準備されるようになった。その人気を当て込んで、麒麟麦酒は勝を「キリンラガービール」のコマーシャル『ラ党の人々』のメインキャラクターに起用した。

勝の演じる中小企業の社長は亡き妻の四十九日法要の後、ビールを飲みながら、若い秘書との結婚を切り出す。突然の父親の再婚宣言に、子どもたちは動揺するというのが第一話だった。秘書に松坂慶子、長女に手塚理美、その夫に国広富之、次女に富田靖子が配された。

演出はつかこうへいが手がけ、一年間で完結。つかは勝と仕事が出来ることを喜び、同じ設定と配役で映画を撮りたいと話していた。勝の人生の歯車は再びいい方向に回り始めたように見えた。
ところが──。

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