ツルツル、ピカピカ、ザラザラの不思議
〜「表面」世界の解明が未来を開く

日本表面科学会=編『すごいぞ! 身のまわりの表面科学』
〔photo〕iStock

表面の世界がわかれば、未来が見えてくる!

ひと口に表面といっても、その顔は千差万別。おまけに生物から物質、マクロからミクロと見方によってその姿は自在に変化。表面とは何なのか? 表面はなぜあるのか? 表と裏の境界はどうなっているのか? 考えれば考えるほど湧き出てくる表面に関する疑問の数々……。今日からキミも表面科学マニア!

まえがき

「表面科学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 私たちは身のまわりにある日用品から最先端のナノテクノロジーに至るまで、物質の表面における現象をうまく活用していますが、それを科学の目で解明し、さらに便利なものを作り出しているのが表面科学なのです。

 ところが、表面で起こる現象を調べるのは非常に難しいことでした。1945年にノーベル物理学賞を受賞したパウリは、「固体は神が創りたもうたが、表面は悪魔が創った」と言い放っているほどです。

 たとえばX線で結晶を調べようとすると、1cm2(cc)に原子は1022個(一兆の一〇〇億倍)以上あるので、簡単に構造を調べる(見る)ことができますが、表面1cm2には1015個(一〇〇〇兆)の原子しかありません。つまり、結晶の中には表面にある原子の数より一〇〇〇万倍も多くの原子があるので、表面の原子からの信号が埋もれてしまって表面の原子だけを見ることができませんでした。

 まして表面を作ってもすぐにゴミや汚れが付いてしまい、本当の表面の姿を調べることができないまま、表面科学の研究者は長い間悪魔と格闘してきたのです。「表面・界面を制御するものは半導体デバイスを制す」とまで言われてきたように、LSIなどの半導体デバイスの性能向上には表面や界面を調べて、それを制御する技術を開発することが必須でした。

 しかし、先人の努力によって電子顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡、放射光という超強力X線、など次々に新しい観察手段が開発され、表面で起きている現象をまさに「手に取るように」見ることができるようになったのです。

「見えれば制御できる」と言いますが、表面や界面を制御して新しいサイエンスの花が咲き、その果実を商品化してスマートフォンや健康センサーなど、より便利で快適な暮らしが実現しています。その様子を本書では分かりやすく解説しています。

 第1章では日常生活の表面科学として、冷蔵庫の消臭剤の働きや接着剤の役割を表面という観点から分かりやすく説明しています。

 第2章では動物・植物の例として、ルリアゲハやハスの葉っぱなどに関する興味深い話題から、動物・植物がいかにうまく表面科学を活用しているかを説明しています。

 第3章では人間・健康の例として、髪の毛の手触りや人工関節にさまざまな工夫を重ねてより美しく、より健康な生活に表面科学がどう貢献しているかを説明しています。

 さらに第4章では摩擦を取り上げ、スキーがよく滑る原理や自動車のタイヤが滑らないでよく止まる秘密を科学の目で解き明かします。宇宙ステーションで摩擦が意外なところで活躍しているのには驚かされます。

 第5章では環境・エネルギー問題として、環境をきれいにする触媒や身近な燃料電池・リチウムイオン電池・太陽電池などの性能向上に表面科学が大きく貢献していることを説明しています。

 最後に第6章では最先端ナノテクノロジーについて紹介し、原子一個を動かすトランジスタやバイオセンサーなど最先端のデバイスがまさに表面科学の知恵を集めたものであり、夢を実現するために不可欠な技術であることをあらためて認識することになるはずです。

 このように、表面科学は難しけれどもそこにはたくさんの宝の山がまだまだ眠っています。それらの課題に果敢にチャレンジした研究者がノーベル賞受賞の栄誉に浴しています。多くのノーベル賞受賞者の中から特に関係のある15組を選んで、コラムで紹介しています。これを読むと、表面科学が決して「表面的な(?)科学」ではないことを理解していただけると思います。

 また、これらのノーベル賞は主に硬いもの(金属や半導体)の表面を扱っていましたが、第2章、第3章で紹介するように、表面や界面の研究最前線は柔らかいもの(ソフトマター)に移りつつあります。

 この本を読んで表面科学を身近なものに感じてもらえたら幸いです。さらに詳しく知りたい方は、巻末の参考図書を是非読んでみて下さい。実は表面科学会は表面科学の面白さを伝えるビデオ教材を数年前に作って科学技術振興機構(JST)のホームページにアップしています。

 本書を一冊読み通せば、あなたもりっぱな表面科学マニアです。一緒に表面科学を楽しみましょう。

著者 日本表面科学会 
公益社団法人。一九七九年創立。現在、会員数一八〇〇人強。表面に関する学理およびその応用についての研究発表、知識の交換、一般社会への普及・利用促進などを目的とする。最近では市民講座など積極的に開催し、表面科学の教育・育成持病も進めている。
『すごいぞ! 身のまわりの表面科学』
ツルツル、ピカピカ、ザラザラの不思議

日本表面科学会=編

発行年月日: 2015/10/20
ページ数: 272
シリーズ通巻番号: B1940

定価:本体  980円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)

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