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あなたの会社の危機管理は大丈夫!?
まさかの時、企業の存亡を左右する「リスクマネジメント」

免震ゴム問題で謝罪会見をする東洋ゴム幹部

企業にとって『不祥事』は残念ながら避けられない。ならば、いかに危機管理を高い意識で準備しておくかがポイントとなる。企業の存亡を左右するリスクマネジメントの実態とは!?

ちょっと乱暴ないい方になるかもしれないけれど、企業にとって『不祥事』は避けられないことである。会社の規模が大きくなればなるほど、そこに働く従業員の数は増え、残念ながら一定の比率で『不祥事』は起こり得る。

この不祥事が、従業員の個人的な問題なのか、はたまた会社組織としての問題なのかによっても、その後の進展は大きく変わってくる。末端の従業員が起こした、業務とは関係のない不祥事であれば、それ自体によって企業が糾弾されることはないだろう。しかし、この「個人」が企業の経営に関わる人材であれば事態は大きく変わってくる。

女性役員逮捕に対するトヨタの対応は早かったジュリー・ハンプ氏の逮捕後、翌6月19日に「世間をお騒がせして申し訳ない」と謝罪した豊田章男社長

トヨタ自動車のジュリー・ハンプ常務役員(当時)が麻薬の不正輸入で逮捕されたというニュースが6月中旬、突如といっていいタイミングで世間を騒がせた。トヨタ自動車という企業本体の業務に関わる不祥事ではなく、あくまでも一個人の起こした「事件」だが、トヨタ自動車という大企業の経営に関わる人物ということで、当然世間は注目する。

しかも、ハンプ氏はトヨタ自動車としては初の女性役員であるとともに、外国人としても初の役員、しかもリスクマネジメントの本丸とも言える広報担当役員だったということで、よりいっそうの注目を集めることとなった。

この件に対するトヨタ自動車の対応は早かった。逮捕が報じられた翌6月19日の夕方に会見を開き、豊田章男社長が自ら「役員が逮捕され、世間をお騒がせしたことをお詫びします」と謝罪した。

実はこの対応について、リスクマネジメントの専門家の評価は二分している。

「役員だとはいえ、企業活動に関係のない個人的な不祥事。現に逮捕されているとはいえ、本人は容疑を否認している段階で、社長が会見を開いて謝罪する必要はない」というのが否定的意見である。

いっぽうで、肯定的な意見も少なくない。

「たしかにリスクマネジメントの観点から見ると、あの段階での会見はNGです。しかし、実際に会見を取材した印象では、豊田章男社長の謝罪をしなければならないという真摯な姿勢が感じられて、マイナスイメージを持った人は少なかったと思います」と言う専門家もいる。

リスクマネジメントの本質とは、結局は真摯な態度

ただし、これは表裏一体で、豊田社長は「まずは、なにはなくとも謝罪」という思いで会見に臨み、自分の口で謝罪を伝えたかったのだろう。だからこそ真摯な態度が伝わった。当然批判も受けようが、それも含めて自身が矢面に立つことを選んだ結果である。

いっぽうでこうした早いタイミングでの謝罪はパフォーマンスであると受け取られるリスクもある。会見に臨むトップに真摯な態度が見られなければ、逆効果になるリスクを大きくはらんでいる。

2000年、集団食中毒事件に対する雪印乳業石川哲郎社長の対応は、危機管理意識がまったく感じられなかった日本を代表する乳業メーカーだった雪印乳業だが、2000年に集団食中毒事件を起こした。謝罪会見で当時の石川哲郎社長は「私は寝ていないんだC」と報道陣の質問を遮るように退席したことで厳しく批判された。その後、雪印グルーブは関連会社の牛肉偽装問題が露見するなど不祥事が続き、解散→再編となった

2000年に起こった雪印乳業の集団食中毒事件を覚えているだろうか!?

大阪を中心に、雪印乳業の製品を口にした消費者に食中毒が発生し、最終的には1万5000人規模の被害者が発生した。

原因は北海道の工場で加工した原料の脱脂粉乳が、製造時の停電により黄色ブドウ球菌が増殖し、毒素が発生したことにあった。

この事件の会見時、当時の石川哲郎社長は報道陣の会見時間の延長を求める声に対し「私は寝ていないんだ!!」と会見を打ち切り退席しようとした。企業トップとしての責任感のなさが露呈した瞬間だった。

あくまでも想像だが、「現場の連中はなんてことしてくれたんだ。オレだってむしろ被害者だ」くらいの気持ちがあったのではなかろうか!?

その後雪印グルーブは、2002年の牛肉偽装問題などの不祥事もあり、会社解散→再編へとつながった。

これは極端な事例だが、企業トップの対応としては、特に企業活動の根幹をなす業務の不祥事であれば、全責任は自分自身にあるとの認識で臨まなくてはならない。

リスクマネジメントの専門家が口を揃えるのは以下の3点。

・不祥事などの困った事実が発生した場合、必ずそれは外部に露見する
・露見のタイミングが遅くなれば遅くなるほど、その後のリスクは大きくなる
・なるべく早いタイミングで事実を企業側から発信する

ということ。

大塚家具は「不祥事」ではないものの、お家騒動で企業イメージ低下の危機に……いわゆる不祥事とは異なり、経営陣の対立という図式だったが、これが実の親子で泥仕合の様相を呈したことでイメージダウンの危機に瀕した大塚家具だったが……

そのためにも大切なのが、不都合な事実こそ社内で共有できる体質を作ることだという。つまり、隠したくなるような困ったこと、不祥事などこそ、積極的に上層部に伝え社内で共有し改善するとともに、必要なタイミングで会見を開き謝罪、説明をするということである。

2000年に大きな社会問題となった三菱自動車のリコール隠し問題は、その大きな教訓といえる。

20年以上にわたりリコールにすべき事案を隠蔽していたものが、社内からの内部告発で露見したのだ。『まずいことは隠しておけ』という企業体質が根底にあったことは否定できまい。リコールには当然巨額の費用が発生する。あるいはリコール事案が発生することで信用を失うという思いがあったのかもしれない。

しかしこうしたことはいつか露見する。その後、大きな社会問題に発展したことで三菱自動車の信頼は大きく失墜し、現在に至る経営再建に10年以上の苦しみを味わうこととなったのは今さら説明するまでもないだろう。

単発的に発生した不祥事であれば、まだ世間の目はそれほどは厳しくはない。しかし、同じような事案の不祥事が連続すると「企業体質」が問われるようになる。その端的な例がJR北海道ではなかろうか。

2011年に石勝線で特急「スーパーおおぞら」が脱線し火災を起こす事故が発生した。その後も信号トラブルや運転士の居眠りなどの不祥事が続き企業体質が問われるなか、2013年には8月、9月と連続して貨物列車の脱線事故を起こしている。

8月の事故は大雨による土砂流出が原因だったが、9月の事故は保線ミスによりレール幅が規定値よりも広がっていたことが原因だった。貨物列車自体はJR貨物の運転だが、走る線路はJR北海道の管轄である。その前の7月にはディーゼル特急が出火する事故を起こしており、JR北海道の安全に対する企業体質が大きく問われる事態となった。

特に9月の脱線事故を契機に、保線現場での線路異常の放置、さらには軌道検査データの改ざんなどが発覚。それだけではなくその後もさまざまな事故やトラブル、不祥事が発覚した。

この背景にはミスやトラブルを報告しづらい企業風土があることが指摘された。つまり、ミスやトラブルを報告することで、厳しく叱責され、次第に隠蔽体質へと流れていった、ということだ。不採算路線を多く抱えるJR北海道は経営環境が厳しく、保線にかかるコストを低減したかった、という本末転倒な意識もあったのだろう。

JR北海道のようなインフラ事業の場合、代替企業がないため大きな不祥事を起こし、さらにその後の対応を誤ったからといってただちに倒産するということにはならないが、雪印の例のように大企業であっても、いや、大企業だからこそ危機管理意識いかんで存亡を左右するということは起こるのだ。

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