妻を喪った元SP、大志を閉ざした元政治家秘書、父親を亡くした少年---「後悔」を秘めた男たちの内面に迫る群像劇

インタビュー「書いたのは私です」永瀬隼介
『悔いてのち』著者の永瀬隼介さん

主人公は「市井の人」

―ある夫婦の物語であり、群像劇です。これまでのハードボイルドな作品と比べ、主人公の小津は元SPという異色さはあるにしても、心情を追っていくと「市井の人」。「後悔」を抱いた人物を据えているのが新鮮です。タイトルはご自分で?

当初は、大物政治家を主人公に『閣下、大いに笑う』というタイトルで書いていました。小津はその政治家・平泉を守るSPだったのですが、三度四度と書き直すうちに、現在はパチンコチェーンの総務で働く彼が中心になっていったんです。

もう一人、どうしても描きたかったのが、平泉の秘書を経て「執事」となった大崎です。

―平泉の屋敷に住まい、隠然と差配している「謎の老人」ですね。「執事」というと、作中でも紹介されているカズオ・イシグロの『日の名残り』とも重なります。

『日の名残り』は好きな小説で、語り手である執事のスティーブンスのような人物を描きたいという気持ちが念頭にありました。裏方の人生に惹かれるんですよ。

通常、政治家の秘書は事件が発覚して責任を負わされる場合を除けば、表に出てこない。彼らが何を考え、その生涯をまっとうするのか。以前週刊誌の記者をしていた頃から、ずっと興味がありました。

小津の設定ですが、日本に要人警護のSPが誕生してからの約40年間、一人の負傷者も出していない。彼らは射撃や柔剣道で優秀な成績を収めたノンキャリアのエリートなんです。日々張り詰めた生活を送った彼らが、引退後をどう過ごすのか。何度も書いては直すうち、女房に先立たれて退職した小津の逸話が膨らんでいきました。

―大崎の造形も魅力的ですね。時代劇でいうと家老タイプ。亡くなられた大滝秀治さんを想像しながら読みました。

政治家のために「耐えて耐えて」の職業。「あなたはそれで満足なんですか?」と聞きたくなるくらい。「いつか俺も代議士に」と野望を秘めながらも叶わなかった人間を書いてみたかったんです。