本ではなく「本屋」を売る――街の書店が潰れる時代に、B&Bに毎日人が集まる理由

2015.10.27 THU

下北沢、B&B。

扉を開けると、科学、アート、文学、建築、料理……文脈のある選りすぐりの本たちが静かに並ぶ。海外を旅して新しいものを見るようなわくわく感や、こんなことを知りたい!という知的好奇心が刺激され、目の前の本に自然と手が伸びる。

ここはブック・コーディネーターとして本にまつわる仕事を手がけてきた内沼晋太郎さんが、博報堂ケトル代表の嶋浩一郎さんと2012年に開いたまちの本屋。

じっくりと本を選ぶ人や売り物でもある椅子に座ってビールを飲む人。毎日開催されるイベントに来る人たち。B&Bには、「本」を媒介にして「人」が集まる。

「本屋はメディア」を本気でやる――

内沼さんがまだ構想段階だった資料にはっきりと書いたその言葉どおり、今年4年目を迎える本屋B&Bは、まさに「メディアとしての本屋」になっている。

今回「メディア化する場所」として、本屋B&Bのあり方、そして本屋というメディアの可能性について、内沼さんに話を聞いた。(取材・徳瑠里香、藤村能光[サイボウズ式]/写真・岡村隆広)

本屋として未来に残っていくために、メディアになる

メディアを「媒介するもの」と定義するのなら、本はそもそもメディアで、その本が並んでいる場所である本屋もメディアになります。

そもそも「本屋はメディアである」という考え方は昔からあるんですね。全国に広がる新刊書店は自由に出入りでき、立ち読みする人たちは無料で情報を得ることもできる。だから集客力がある。

雑誌をつくる側からすれば、買う人だけでなく書店に訪れる人にも広告を見せることができ、単行本の著者は店頭に置かれた本を通じて自分の名前を広めることができる。人が集まる空間に本が並ぶだけで情報発信の場、つまりメディアになるわけです。

だから商業施設は上階に人を呼んで、降りてくる途中で消費してもらおうと比較的安い家賃で書店を入れてきました。でも「純粋な売上部数以上のメディア効果がある」という文脈では、書店は儲かりません。どれだけ人が集まっても、本を通じて情報発信をしても、書店には一部の本を買ってくれた人からの少ない利益しか落ちない。

にもかかわらず、その集客力をどう利益に還元するかということは、真面目に考えられてこなかったと感じます。本屋は入場料をとるべきだ、という議論も定期的に起こりますが、それも新刊書店のビジネスとしては、2015年現在現実的なアイデアではない。

かつてぼくが「ブックピックオーケストラ」の代表だったとき、横浜でやっていた実験的なお店「encounter.」では1時間500円の入場料を取っていましたが、他に実践された例を知りません。大型書店はともかく、特に小さな新刊書店は本の売上だけで利益を上げるのが難しく、減っているという現状があります。

だから僕らはB&Bをつくるにあたって、ちゃんと利益を上げて未来に残る本屋にしなければならないと思いました。そのために、書店が本来持つメディアとしての性質を生かしながら、「メディアとしての本屋」になっていこう、と。

売り物は本ではなく、本屋

僕らの「メディアとしての本屋」の核は、まず大前提として自分たちで選んだ新品の書籍を売ることです。

通常、新刊書店というのは取次から自動的に送られてくる新刊配本システムを採用していますが、僕らはその配本をとっていません。なぜなら自分たちが選んだ本だけを並べたいから。同じタイミングで配本される本を並べても大型書店と差別化はできませんし、「この本が欲しい」と決まっている目的買いには電子書籍やネット書店にもかないません。

リアルの小さな本屋だからこそ、1冊ずつ選書にこだわって、「何か面白い本が欲しい」という買う本の決まっていないお客様にとっていい出会いのある書店になろう、そこにしか勝ち目がない、と。

つまり、メディアとして本文にあたる本のセレクトにまず注力する。やっぱり本屋としていい選書をすることによって、集客につながるんですね。お客さんだけでなく、著者の方がうちの品ぞろえを見て、「ここでイベントをやりたい」とおっしゃってくださることもあります。自分たちで本を選ぶこと自体がまず、メディアをつくることにもなるんですね。

でも、業界全体がそうした新刊の自動配本や、委託再販制を前提として成り立っている収益構造なので、ゼロから自分たちで選んで注文すると、通常よりも高コストになり収益性が下がります。選書に2倍の時間をかけたからといって、売上が2倍上がるということは、少なくともすぐには起こらない。

そこで僕らは、選書にこだわっていくことを前提にして、いかに本の売上以外で収益を上げるかを考えました。

大きく3つの特徴があります。1つ目が、ビールが飲める本屋。B&Bは「Book&Beer」の略ですが、ビール以外にもワインやコーヒー、ソフトドリンクも飲めます。2つ目は、什器に使っている本棚や店内にある机や椅子はすべて売り物です。目黒区の北欧ヴィンテージ家具店「KONTRAST」と提携して家具を売っています。そして核になるのが3つ目の、著者を招いて毎日開催するイベントです。

加えて、3年経ったいまは、ここで英会話教室をやりたい、雑誌の撮影場所として使いたい、商品のプロモーションをしたい、といったようなさまざまな声をいただいています。実際に撮影場所に使ってもらったり、連続講座をやったり、リトルプレスを出版したり、テレビ番組をつくったり……「B&Bと何かやりたい」と思ってくださる方が増えているという点で、ひとつのメディアとしていい循環が生まれています。

そういう意味で、B&Bは“本”がメインの売り物というより、B&Bという“本屋”それ自体が売り物だと捉えることもできます。

イベントの企画は雑誌の編集に似ている

本屋を売り物にするという視点で、僕らの核になるのが毎日欠かさず開催するイベントです。毎日企画するのは大変じゃないですか?とよく聞かれるんですが、本は年間約8万点、1日に200~300冊出版されています。それらが元ネタになりますから、切り口には困りません。

僕らは新刊書店ですから、もちろん新刊情報を毎日見ているんですが、もはや本がイベントに見えるようになっています(笑)。イベントになりそうな本を見つけると、この本でこの切り口でこの対談相手で……と企画が浮かんでくるんです。

うちのスタッフはほぼ全員、書店に行っても「商品として店で仕入れるべきかどうか」ということと合わせて、必ず「イベントになりそうかどうか」という目線で本を見ていますね。

平日は1本、土日は2本毎日イベントをしているので月40本ほど企画していますが、僕らはWEBメディアであれば40本の記事を配信するように、雑誌であれば40ページの企画をつくるように、日々のイベントを編集しています。

普通の新刊書店がイベントを毎日開催できないのは、イベントの専任がいないから当たり前です。書店イベントというのは昔からあるのですが、たいてい著者のギャラは出版社が負担して入場無料であったり、あるいは入場料を500円程にしてそれをすべてギャラにあてたりして、あくまで本のプロモーションであり書店は本が売れればOK、という考え方で、書店員が日常業務の傍ら片手間でやるものでした。その体制で毎日イベントやるのは難しいでしょう。

僕らはイベント企画にきちんと人を当てています。チーム体制としては、月10本企画するスタッフが3人いて、2~3本企画するスタッフが4,5人。僕は編集長のような位置づけですね。週1回MTGがあって、いわゆる編集会議のようなものですが、そこで企画を出したり、1ヵ月半くらい先までの集客状況などを共有したりしています。

日常的にメールがバンバン飛び交っていて、僕が企画のありなしを判断しています。そのときに見ているのは、本を選ぶ基準ともイコールになるのですが、B&Bらしさというか、自分たちの店でやるべき企画かどうかということですね。言葉で表すのは難しいんですが、スタッフはこの感覚を共有しています。

あとは、これはうちでやらなくてもほかでもやるよとか、未知数だけど面白そうだからやってみようとか、ある一定の基準でふるいにかけるというよりは、その時々のお店の状況やタイミングによるものが大きいです。もちろん、ペイラインを越える集客ができるかどうかというのも判断基準のひとつです。

小さな組織だから、ルールをがちがちに固めて明確な線引きをしてもあまり意味がないというか、面白くない。感覚やその時の状況に合わせて判断できる規模なんです。僕の判断が絶対ではないし、いろんなことが柔軟にできたほうが、単純に仕事として豊かじゃないですか。その方が、働いている人も僕も楽しいですから。

成功の基準は、もちろん集客だけではありません。たとえ人数が少なくても感動して泣いている人が3人いたら、当然「いいイベントだったね」ということになります。その人がB&Bでいい体験をしたことで、また来てくれるだろうし、SNSで発信したり口コミで広げてくれたりするかもしれない。そういうイベントは、中長期的な視点で見たらお店にいい効果をもたらしてくれます。

媒体としての本屋の可能性

これからの小さな本屋の生き残り方は2つしかなくて、1つは「ダウンサイジング」、もうひとつは「掛け算」だと思っています。B&Bは後者で、「本屋×ビール×家具×イベント」。

本屋×花屋でもいいし、本屋×居酒屋でもいいと思うんですが、花についてもお酒についても、その背景にあるものや思想を代弁してくれる本が必ず存在します。言葉で媒介する力が本自体にあるので、何らかのテーマを持って集めた本屋はメディアになるし、その可能性は無限にあります。

僕はいま本屋になりたいという人向けに「これからの本屋講座」という講座を開いていますが、ここに来る人たちにも、どうしても本だけでやっていきたいという人以外には、掛け合わせるテーマを持ってもらうように促すことが多いです。

ぼくはそもそもこの世の中に広義の「本屋」を増やしたいと思っていて、『本の逆襲』(朝日出版社、アイデアインク)という本を書きました。ひとつのアジテーションにはなったし、考え方は提示できたと思っているのですが、これから始める人に向けてのHOW TOになるようなマニュアルにはできなかったんですね。

そもそも「本屋」は場所であると同時に人であるので、どこでどのようにやるかだけでなく、誰がやるかによって個別具体的に全然あり方が変わってきます。『本の逆襲』が入口なら、講座は出口。個別のコンサルのような感覚で講座をやっています。受講生からも、少しずつ「本屋」になる人が出来始めています。

本屋を一つつくることは、メディアを一つ立ち上げるようなものです。コンセプトやビジネスモデルを決めて、コンテンツを詰めていく。B&Bでいえば、コンセプトは「これからの街の本屋」、ビジネスモデルは「本屋×ビール×家具×イベント」、本やイベントのラインナップがコンテンツになるわけです。

本屋においては”人”こそがメディア

僕らがB&Bでつくりたいのは、一言で言えば知的好奇心を刺激する体験ですね。1冊1冊の本は検索すればアマゾンのクリック一つで買えるものですが、リアルの書店に行く価値というのは、その本がどうやって並んでいるか、その文脈や陳列によって、どれだけ人々の知的好奇心を刺激し「あれも欲しい、これも興味がある」という状態にすることができるか、ということにあると思うんです。何が売っていて何が売っていないのか、何の隣に何が置かれているか、そういうものによって本屋の個性が出てきます。

厳選された本とその陳列が知的好奇心を刺激するような空間を形づくっていて、よく練られた質の高いイベントが開催されていて、それらをとりまく北欧の家具やシンプルな内装、静かな音楽、ビールやワイン……そういう一つひとつがつくりあげる空間を「B&B」という本屋を、ひとつの売り物にしているんですね。そこに僕らの手が行き届いている、ということがメディアとしての価値になります。

本屋はシステムでもあると同時に、やはり“誰がやるか”が重要です。毎日変わる場所だし、永続的に手をかける必要がある。だから、僕も下北沢界隈に住んでいて、毎日行けるようにしています。

いまのところ2号店をつくる予定はありません。そもそも同じものをビジネスとしてパッケージ化して拡大していくことより、やったことのない違うことに興味があるという僕の性質もあります。拡げることで薄まってしまうくらいなら、ひとつ濃いものをつくりたい。

だからノウハウはフルオープンにしています。B&Bを見て興味を持ってくれた人たちが、講座を受けたりインターンをしてくれたりして、別の本屋を全国各地につくってくれればいい。

自分が毎日行くことができない場所に自分のお店をどんどん出すより、強い意志を持って取り組む同士たちの本屋が日本中にあったほうが、単純に楽しいじゃないですか。僕はそれぞれの“人”がつくる本屋が、世界中に広がっている未来のほうにわくわくするんです。

B&Bは、中心に僕と嶋がいて、スタッフがいて、誰かが書いた本を扱って、毎日違う登壇者を招いたイベントを企画し、そこを目がけて人が来てくださる。そういう意味では、本屋においてはそこに関わる“人”こそがメディアであり、本屋のメディア性を成り立たせているんですね。

内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。num­a­books代表。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。一橋大学商学部商学科卒。某国際見本市主催会社に入社し、2ヶ月で退社。往来堂書店(東京・千駄木)に勤務する傍ら、2003年book pick or­ches­traを設立。2006年末まで代表をつとめたのち、num­a­booksを設立。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。
 


つづく。