「悪質ファンド」の摘発に警察が総力をあげる
振込詐欺をうわまわる被害額は1650億円

 「悪質ファンド」の被害が急増している。

  主宰者は、「元本確保」「高利回り」「確実な利益」を謳い文句に投資をつのり、投資組合などのファンドに入金させるものの、実際は勧誘通りの投資など行っておらず、集めるだけ集めると雲隠れするような連中である。

 電話による勧誘が中心なので、騙されるのは小金を持った、昼間、家にいる老人たち。被害金額は平均すると数百万円にものぼる。被害者は横の連絡を取ることがないので泣き寝入りがほとんどだ。これまでは警察に相談しても「あなたも儲けたかったんでしょう。自己責任です」と、諭されて返されるのがオチだった。

 しかし、そうして野放しにされている間に、「悪質ファンド」が急激に増え、被害金額も巨額となった。警視庁に寄せられた投資に関する相談は、2007年が232件、08年が218件、09年は372件にのぼる。全国で摘発されたファンドなどの資産形成事犯の被害者は約5万4000人で、被害総額は約1650億円だった。

 被害者の急増に、警察当局も放置できなくなった。3月30日、警視庁生活安全部に「資産形成事犯集中取締本部」を設置、経験豊富な生活経済課の60人を核に、警視庁内各警察署や被害者の多い埼玉、千葉、神奈川県警などからの応援100名を加え、160名体制でスタートした。

 犯行グループは、ファンドの実務経験がある金融関係者を核に、電話勧誘のプロで形成されていることが多い。最近の特徴は、外資や証券出身で、海外事情に明るく、語学が堪能な人間が加わっていること。

 ファンドの所在地がタックスヘイブン(租税回避地)のケイマン島などに置かれている。資金移動を把握されないための措置で、海外送金と外国語の資料は、捜査当局の動きを鈍らせる。捜査員には語学に堪能な人は少なく、海外捜査のカベもある。それが犯罪グループのツケ目でもあった。

 こうしたファンドが隆盛になったのは、1990年代末以降、規制緩和によって海外送金が自由になり、香港などでダミーの代表や銀行・証券口座付きのファンドが、数十万円で手に入るようになってからである。

 もちろんまともなファンドもある。しかし英語を読めず、話せず、海外投資の知識もない老人を中心とした投資家に、タックスヘイブンのファンドへの投資を勧めるファンド主宰者のほとんどはインチキだといっていい。

 21世紀に入ってからは、その手口が広まった。各ファンドは、電話、ネット広告、書籍の発行、一流ホテルの会場を借りきって投資説明会など、さまざまな手口で投資家を集める。オフイスは豪華で来社した時や投資説明会などでのもてなしは一流。その雰囲気にのまれて投資する人もいた。

 投資はファンドの主宰者に一任するという形がほとんど。投資先は通貨、外国株、外国投信、国内外未公開株、金など貴金属、不動産ファンドなどだ。銀行に預けた時の金利は微々たるものだけに、10%前後を保証するファンドは魅力的である。顧客に提出する運用成績は、もちろん右肩上がりだ。

 しかし、それにつられて投資すると、実態は自転車操業で運用成績はデタラメ。最初は配当をキッチリと出すのだが、やがて自転車操業に陥って破綻するというパターンがほとんどだ。こううしたファンドが都内だけで数十はあり、百億円以上を集めるような大型ファンドも少なくなかった。

海外ファンドと組んでパワーアップ

 被害の拡大に拍車をかけたのは、やはりリーマン・ショックである。まともなファンドでもそうだったのだから、インチキファンドはことごとくやられた。壊滅状態といっていい。数百億円を集めた著名詐欺ファンドも倒れた。不思議なことにほとんどは事件化していないのは、返ってこないことがわかっているだけに、訴える気も起きないのである。

 一方で、ファンドがことごとく元本割れをする中、確信犯として危ないファンドに関わっていた金融マンはもちろん、グレーゾーンのファンド関係者も資金繰りに困り、危ない勧誘に手を染めるようになった。

 サブプライムショック、リーマン・ショックを経た詐欺ファンド被害者の急増は、そんなファンド事情を映している。最近では、そうしたグループに未公開株、海外先物、海外資源、国内先物、外為証拠金取引といった“商材”を扱っていた悪辣なグループが合体したケースも目立った言える。

 これまで、警察が事件として積極的に取り上げなかったのは、言語の壁、海外捜査の難しさに加え、小金持ちの被害者の「自己責任」で済ませていいという気があったからだ。
しかし、前述の様な事情で被害は急拡大、さらに国内金融犯罪グループが海外ファンドと組んでパワーアップするなどの大がかりになってきていた。そこで警察庁が主導、まず警視庁に立ち上げた資産形成事犯集中取締本部を、大阪府警、京都府警、愛知県警、広島県警などの拠点にも置いて、横の連絡を取りながら根絶を目指す方針である。

 こうした集中取締の前例としては、振込詐欺がある。振込詐欺の場合、昨年の被害者数は約7200人で被害総額が約96億円にまで縮小した。いまや詐欺ファンドのほうが、被害者数も被害金額もはるかに大きくなっている。こうした事態を重く見た警察当局は、2010年度は悪質ファンドの摘発に総力を入れる方針である。
 

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