ヤクルト優勝の立役者・「不死身のエース」館山を見よ!二宮清純レポート

2015年10月14日(水) 週刊現代

週刊現代賢者の知恵

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血が通わず、爪も伸びない

館山が右手血行障害の改善手術を受けたのは2011年の11月である。1度の手術では完治しないのが、この病の厄介なところ。館山本人とヒザを交えて話したのは、一昨年の2月のことだ。

「僕の中では手術したことで1年くらいで治ると思っていたんです。ちょうどその頃、仁志敏久さんとお話しする機会があった。野手ですが、仁志さんも同じ手術を受けていた。〝痛みが消えるには、5~6年はかかるよ〟と。

とはいえ、5~6年も待っていたのでは現役生活が終わってしまう。これはもう、その痛みを受け入れながらやっていくしかないかなと……」

血行障害が原因で引退に追い込まれた名投手を知っている。元広島の大野豊だ。以前、こんな話を聞いたことがある。

「痛いし、だるいし、感覚もない。脈も打ってなくて、このまま壊死するんじゃないかと心配になったくらいです。

それでも手術をして、やっと手に温みが戻ってきた。だが、しばらくして再発。指先でスピンをかけているつもりのボールが滑る。ピッチャーにとっては致命傷でした」

血行障害とは、文字どおり血が通わなくなる傷病だ。自分の脈がとれなくなった際のショックは、想像して余りある。

館山は語っていた。

「(血行障害を患った)自分の指が冷たいのか、温かいのかわからない時がある。冷えてくると(ボールが)抜けやすくなる。だから狙うのもアウトローぴったりではなく、うまく抜けたらアウトローという感覚。事故が起きてからでは遅いので、絶えず指の体温だけはチェックしています」

さらに館山は、自らの体を「中古車」にたとえ、こう続けたのだ。

「もうこの体はしょうがない。単に血行障害になりました、リハビリをしました、手術をして治りましたという人と僕の場合は違うんです。ひとつ治れば、ひとつがまた壊れる。その繰り返しなんです」

その物言いに、ある種の諦観が垣間見えた。

だが、そこで終わらないのが、この人物の真骨頂である。

血が通わず、「爪も伸びない」という指先でボールを握ると、どうなるか。指がへこんでしまう。あろうことか、館山は、〝人体の異変〟すらピッチングに利用してみせたのだ。

「投げる前にギュッと(指先を)ボールに押し付けると、指先に縫い目の跡がそのまま残る。そのへこみに引っかけて(ボールを)投げると、コントロールがつくんです。この発見はおもしろかった……」

館山の話を聞いていて、ある言葉を思い出した。

「失ったものを数えるな。残されたものを最大限にいかせ」

これは〝パラリンピックの父〟と呼ばれるルードヴィッヒ・グットマン博士の教えである。

ハンディキャップをアドバンテージに転じてみせる館山の投球術は達人を通り越し、仙人の域に達しているように映る。

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