【リレー読書日記・熊谷達也】
人間関係に疲れ切る現代人。でもその前に、そもそも「人間」とは何だろう?

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いつのころからか、レストランに行くと、あるいは、電話での予約の際に、「何か苦手な食材はありますか?」と訊かれる事が多くなった。食べられない物がほぼ皆無の私は、つい最近まで、単に好き嫌いを訊かれているのだと思っていた。それがこの前、いや待てよ、と思い直した。

「苦手なものは?」という質問には、「何か食物アレルギーはお持ちですか?」という意味もあるのではないか? 食物アレルギーを持っていない私は、迂闊にも思いが至っていなかったのだが、たぶんそうなのに違いない。そういえば、アレルギーを起こす可能性のある原材料を、メニューに記載しているお店がずいぶん多くなった。

食物に限らず様々なアレルギーが蔓延しているこの社会には、何か大きな欠陥が潜んでいるのではないかと不安を覚えてしまうのだが、どうしてもあの人は苦手、だとか、声をかけられるのも嫌、などといった、ともすれば誰にでも起こりがちな特定の人物に対する嫌悪や拒絶は、実は比喩でも何でもなく、食物や花粉アレルギーと同様、自己に侵入して来る異物を排除するための免疫機構が過剰に反応してしまう、病理としてのアレルギーらしい。

そう解き明かしているのが『人間アレルギー なぜ「あの人」を嫌いになるのか』である。

私たちを悩ませるままならない人間関係について、新たな視点を与えてくれて新鮮だ。

これまで先人達が積み重ねて来た心理学や精神医学の成果を踏まえつつ、人間アレルギーの視点からそのメカニズムを再構築していく過程は、素人にも分かり易く、読んでいて気持ちがいいくらいである。

さらに、本書が読み物としてとても面白いのは、人間アレルギーの具体例がコラム的に、随所にちりばめられているところだ。精神科医としての著者の臨床体験からの例に留まらず、ニーチェやサン=テグジュペリ、モームといった著名人に対する分析が、大変興味深い。