ジャーナリスト清水潔さんが選ぶ「わが人生最高の一冊」
小さなドラマに宿る真実の魅力
ジャーナリストの清水潔さん

いまは自分でムービーを撮ったりしてテレビ報道に携わっていますが、最初は新聞社の写真部からスタートし、創刊間もない「FOCUS」を経て、文章を書く記者になりました。カメラマンから記者になるというのは、珍しいかもしれません。

読書はノンフィクション中心。「懸命に生きている人」を描く作品が好きで、今回の選書もそういう括りです。順位は便宜的で、意味はありません。

青木冨貴子さんの『ライカでグッドバイ』は、まだピュリツァー賞が何かも知らない写真学校の学生だった頃に読みました。著者の青木さんは、戦場カメラマンの沢田教一が亡くなったあとに彼の事績の取材を始め、ベトナムの報道仲間や沢田さんと行動を共にした兵士を探しては会って話を聞き、等身大の「沢田教一」を描きあげている。

驚いたのは、発表されている写真にとどまらず、著者が、遺族が保管しているネガの一コマ一コマまで目を通し、「調査報道」を徹底していたこと。

戦場取材というと銃弾飛び交うエキサイティングな場面を思い描きがちですが、実際には現地に入ると、ひたすらシャッターチャンスを待つのが仕事になる。戦場ではありませんが、ぼくも写真週刊誌時代に張り込み取材を経験しています。

夏などはクルマの中に、汗だくになって閉じこもるけれど、シャッターを切るのは一瞬。沢田さんも「泥沼に一日浸かったものの今日も何もなかった」などと日記に書き残している。「決定的な一枚」を撮れたのは、沢田さんに津軽人らしい忍耐と情熱があったからでしょうね。

次は『高熱隧道』。吉村昭さんの本はほとんど読んでいます。この作品は戦時中「電力確保」の号令の下、黒部峡谷に発電所を建設するためのトンネル掘りに従事した人たちの記録です。彼らは、どれだけ死者を出そうとも、国家事業である工事をやめようとはしない。

地熱が高く、ダイナマイトが自然発火する。岩盤に水をぶっかけてもすぐに蒸発してしまう。そこへ製氷の機械をもってきて……と極限下での作業を描いている。詳細な取材に圧倒されますね。