日本はがんを克服できるか?
~現役医師で作家の久坂部羊が描いた「がん治療の現実」

インタビュー「書いたのは私です」久坂部羊
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―がん医療に真正面から取り組んだ力作ですね。

構想を思いついたのは'07年頃。トップレベルのがん研究医は超エリートで優秀ですが、その一方で競争は苛烈で人間関係もややこしい。それを物語の舞台にしたら面白いんじゃないかと。'13年に書き出して丸二年かけて書き上げた、思い入れの強い作品ですね。

―先日、女優の川島なお美さんががんで亡くなりましたが、本作でも、著名人が次々に凶悪化したがんで死去します。それをきっかけにがん治療プロジェクトが動き始めるという展開です。

人々のがんへの不安が高まるなか、それを解消するべくがんの撲滅を目指す首相肝いりのプロジェクトなのですが、仕切る官僚や政治家の思惑も絡みます。

そのなかで、東帝大腫瘍内科の朱川教授、阪都大消化器外科の玄田教授、京御大放射線科の青柳教授、慶陵大免疫療法科の白江教授の各グループが抗がん剤、手術、放射線治療、免疫療法のどれが有効なのかでいがみ合う。

相手の治療法の欠点を並べ立てつつ、主導権と莫大な予算をめぐって激しく争い、それぞれが陰謀をめぐらせつつ、物語は進んでいきます。

―エリート医師たちが野望と欲に翻弄される姿は群像劇として抜群に面白いですが、同時に、がん治療の現状がよく理解できました。

小説には物語だけでなく「情報」という側面もあります。がんに対する誤解は非常に多く、それを正したいという意図もあるんです。

たとえば「早期がん」を、発生して間もないがんだと思っている人は多いですが、実はがん細胞がどの深さまで粘膜の下に到達しているかで決まる。10年経った早期がんもあるし、3ヵ月の進行がんもある。

「再発」は、一度がんが取り除かれたあと、がんが新しくできたと思いがちですが、もともとある、見えなかったがんが大きくなっただけですから。