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日本人が知らない「EUの盟主」ドイツの正体
~VW事件を生み出した「傲慢」「自賛」体質とは

独在住作家が分析
フォルクスワーゲン新トップのミュラー氏は、「信頼を取り戻すためにすべてをやる」と語るが〔PHOTO〕gettyimages

フォルクスワーゲンの不正は、同社78年の歴史の中で最大の危機であるだけではない。ドイツの産業、国家、そして国民全体が深い傷を負うことになりそうだ。勝ち組から一転。世界はこの国に疑惑の目を向け始めた。

「真面目で勤勉」は過去のものに

ドイツ人のイメージといえば、真面目で、勤勉。おそらく昔はそうだったのでしょう。これが今でも定説のように語られていますが、現在のドイツ人は実は休暇が大好きで、病欠も多い。必ずしも勤勉とは言えません。

ただ、労働時間が少ないわりには生産性が高い。それを彼らは自慢に思っており、特に最近のEU(欧州連合)での一人勝ちもあり、少々鼻が高くなっていたかもしれません。

とはいえ、今回のフォルクスワーゲン社の不正事件は、やはり信じられないことでした。ドイツの国民自身も大きなショックを受けています。いったいドイツは何を間違ってしまったのでしょう。ドイツ人の心に潜む「歪み」のようなものが噴出したのか。それとも、実力を蓄えた彼らは、いつの間にか傲慢になっていたのでしょうか。

川口マーン惠美氏。作家、ドイツ・シュトゥットガルト在住。『住んでみたドイツ8勝2敗で日本の勝ち』(講談社刊)が約20万部のベストセラーになるなど、その鋭い日独文化比較が注目を集める。そんな川口氏が、フォルクスワーゲン不正事件から「ドイツ人の失敗」を読み解く。

ドイツ人というのは、私が見る限り、正しい人間でありたいという願望のとても強い人たちです。倫理的でありたい、正しい行動を取りたい。つまり、周囲から尊敬される人になりたいのです。

そして、正しいと思う行動を取れるとき、彼らは大変幸せで、心洗われた気分になり、自己陶酔に陥る。そういう場合のドイツ人の自画自賛たるや、相当なものです。

さらに彼らの奇妙なところは、ときどき皆がこぞって、突然、理性をかなぐり捨ててしまうことです。そして、倫理観だけを前面にかざし、自己礼賛とともに、非合理の極みに向かって猪突猛進していく。こういう状態になった時のドイツ人は、大変情緒的で、絶対に他の意見を受け付けません。

その良い例が、ドイツの脱原発です。

そもそも、遥か遠い福島で起こった原発事故で、日本人以外でこれほど大騒ぎした国民はドイツ人の他にはいません。ドイツではガイガーカウンターまで売れたのです。

その挙句、'11年6月に、2022年リミットでの脱原発を決め、政治家も国民も一丸になった。彼らの心は、自分たちは自然を愛し、拝金主義とは一線を画す気高い国民であるという誇らしさで満たされました。

しかし、です。

政府は、原発の電気を再生エネルギーで賄うつもりでしたが、再エネはいくら増えても一大産業国の電力を安定供給することはできません。何しろお天気次第ですから。そのため、再エネは急増していながら、結局、原発の減る分は火力で賄っています。ですから今、ドイツでは、再エネの買い取りのための賦課金で電気代が高騰するばかりか、CO2も増えています。

さらに、北ドイツの風力電気を南ドイツの電気消費地に運ぶ送電線は住民の反対で進まず、とにかく問題山積みです。2022年までにCO2をこれ以上増やさず、どうやって原発を止めれば良いのか。これもすべては、政治家と国民の一時の自己陶酔の結果なのです。

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