昭和アニメを彩った一流デザイナーの「矜持」
~芸術や名声よりもずっと大事なこと

【書評】大河原邦男・著『メカニックデザイナーの仕事論』/評者 五十嵐浩司
上野の森美術館「メカニックデザイナー 大河原邦男展」のwebサイトより

大河原邦男は、メカニックデザイナーである。しかも、日本で初めてメカニックデザイナーを専業とした人物でもあるのだ。大河原がデビューしたのは1972年より放送された『科学忍者隊ガッチャマン』。以降、40年以上にわたって多くのアニメーションに、デザインを提供し続けている。

本書は、大河原がきわめて柔軟性に富んだデザイナーであることを示している。大河原が描くメカニックは、玩具や模型として商品化される機会が非常に多い。それゆえに大河原は映像作品の監督、場面を描くアニメーター、商品を製造するメーカー、そして玩具や模型を手にするユーザーをすべて見据えてデザインを描くのだ。

これは決してたやすいことではない。四者が望む方向性が別であることも珍しくはないからだ。しかし、大河原はこの難関を何度もクリアしてきた。この柔軟さこそが、メカニックデザイナーとして現在も一線にいる理由の、最も大きなものだろう。

また、大河原は1978年に独立して以来、一貫してフリーランスで仕事を続けてきた。それだけに大河原が語る“仕事論”には重みがある。今も昔も、発注元のオーダーを漏らさずに受け止め、納期を絶対に守る。それが大河原の仕事に対する信条だ。ならば、その原動力は何だろうか?

大河原が取材や講演のたびに、照れながらも必ず語る言葉がある。それは「生活のため」という一言だ。『ヤッターマン』『機動戦士ガンダム』など、アニメーション史上に残るメカニックをデザインし続けてきた男は、芸術や名声以上に家族との生活を何よりも大事に考えている。

だからこそ、この『メカニックデザイナーの仕事論』は、メカニックデザインにまつわるエピソードの要所要所から、フリーランスのクリエイターが持つべき矜持が伝わってくる。本書は単なるアニメーションの現場ルポではない。個人事業主に向けたビジネス書としても、切れ味の鋭い一冊に仕上がっていることを強く述べておきたい。

いがらし・こうじ/'90年代より映像業界でルポライターとして活動。「メカニックデザイナー 大河原邦男展」を監修

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『メカニックデザイナーの仕事論 ヤッターマン、ガンダムを描いた職人』
大河原邦男・著 光文社新書/740円

日本初のメカニックデザイナーが語る、デザイン論、職人論、営業論。

おおかわら・くにお/'47年生まれ。竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)などを経て、'78年からフリーに

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