[プロ野球]
上田哲之「秋山翔吾と真中采配――出現する才能について」

 目の前に、一枚のスポーツ新聞の切り抜きがある(このネット時代に、切り抜きかよ、とか言わないこと!) 1面いっぱいを使って、秋山翔吾(埼玉西武)のバッティングの連続写真が13枚掲載されている(「日刊スポーツ」7月17日付)

 ほれぼれする美しいフォーム

秋山翔吾( ウィキペディアより)

 解説は、かの篠塚和典さん。シブい人選だ。しかも、詳細で非常に説得力がある。まず<(2)から(7)までトップの位置が全く変わっていない>。つまり、ステップする右足を上げ始めて(2)から、着地してバットがトップの状態(7)になるまで、バットの位置が全くブレない。 それから<軸足である左足の膝頭。(中略)角度と位置が変わっていない>。言われて、あらためて連続写真を見れば、たしかにその通り。<本当にほれぼれするフォーム>と結んでいる。

 いや、本当に、何度見ても美しいのですよ。この13コマの連続写真は。

 ご承知の通り、秋山は、シーズン216安打という史上1位の大記録を達成した。現在、日本一の安打製造機といっていいだろう。ところで、彼の昨年の安打数を知っていますか? 123安打である。要するに、今季突如として、ものすごい才能が、わが日本球界に出現したのである。

 今年の秋山に何が起きたのか? 誰もが抱く疑問である。よく言われるのは、今季 からバットを寝かせて構えるようにしたので、スムーズにボールを捉えられるようになった、ということ。じつは、本当にそれだけでこんなに化けるものだろうか、と半信半疑だった。もっとなにかあるんじゃなかろうか。

 ただ、彼が入団した2011年に2軍打撃コーチ、13年からは1軍打撃コーチとして接してきた田辺徳雄現監督のコメントで、私は納得しました。田辺監督によれば、入団時から3割を打つ素質はあったが、引っ張る傾向が強くて反対方向へのヒットが出なかった。
<それを今季からバットを寝かせたことで「点」で打っていたのが「線」になった。反対方向にも安打できるようになった>(「スポーツニッポン」9月14日付)のだそうだ。

 この解説を裏付けるように、千葉ロッテの捕手・田村龍弘は<今季は追い込んでからの内角球を逆方向に打たれた>(「スポーツニッポン」10月2日付)と証言している。

 ボールは「点」ではなく、「線」で捉えろ、とはよく言われる打撃の極意だが、「寝かせる」というひとつのきっかけで、トップの位置、軸足の角度、そしてそこから生み出されるステップとスイングと、すべてが理想状態に限りなく近づいていった、ということだろう。それにしても、216安打という途方もない記録にふさわしい、しなやかなステップと、鋭くも美しいスイングだ。

 今季のペナントレースを見ていると、秋山がその象徴なのだが、これまで明確には表に出ていなかったものすごいものが、一気に顕在化してきた観がある。「露わになった才能の噴出」とでも言うべきか。

 たとえば、トリプルスリーをほぼ確実とし、かつ三冠王の可能性まで見せてくれた山田哲人(東京ヤクルト)もその典型だろう。彼のホームランは、その多くが神宮球場なら中段にまで届く。ヒットや盗塁はもちろんだが、球場が狭いから獲れたホームラン王(たぶん決まりでしょう)ではないのだ。

 日本野球といえば、たとえばダルビッシュ有(現レンジャーズ)、田中将大(現ヤンキース)、大谷翔平(北海道日本ハム)、あるいは金子千尋(オリックス)、前田健太(広島)というふうに、常に投手に大きな才能が出現し続けてきた。それが、特有の文化でもあるのだが、今年は山田と同じくトリプルスリーを達成した柳田悠岐(福岡ソフトバンク)を含め、3人もの、まれにみる才能をもつ打者の存在が露わになった。その意味で、プロ野球の歴史に一つの画期をなす年、と言ってもいい。