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「認知症多発の村」の衝撃!
〜江戸時代から解明されていない奇病の秘密と謎

原因は食べ物か生活習慣かそれとも……
週刊現代 プロフィール

「『紀伊ALS/PDC』の患者さんには、ALSやパーキンソン病のように体が動かなくなり、歩行や日常生活が困難になるケース、物忘れや意欲の低下といった認知症の症状が出るケース、その両方の症状が出るケースがあり、発症後、数年から十数年で亡くなる方が多いようです。中には10代で発症し、20代で亡くなった方もいました。

また、脳を調べてみると、どの患者さんにも同じような病変が見つかります。アルツハイマー病患者の脳でもみられる『タウ蛋白』という物質が、脳細胞の中に異常に蓄積しているのです」

最初は「水」が疑われた

一般的な認知症のうち、約6割を占める「アルツハイマー型認知症」には、ALSやパーキンソン病など、体の自由が利かなくなる難病とよく似た特徴がある。いずれも「脳細胞の中に、正体不明の異物がたまる」のだ。つまり、この「紀伊ALS/PDC」は、アルツハイマー病と「親戚」のような病気なのである。

「最近は、昔に比べると患者さんの数は減りつつあります。それでも、通常の発症率はALSが10万人に1人、パーキンソン病が1000人に1人といわれていますから、数百人しか住んでいない村で毎年のように患者さんが出るというのは、きわめて頻度が高いといえます」(前出・小久保氏)

「紀伊ALS/PDC」は、遠い昔から、地元では誰もが知る病気だった。住民は、徐々に手足が動かなくなったり、重度の物忘れに襲われたりしても、「これが運命」と諦め、受け入れざるを得なかった。江戸時代前期、1689年に刊行された説話集『本朝故事因縁集』に出てくる、足腰が立たなくなる原因不明の病「足萎え」が、最古の記録とみられる。

本格的な研究が始まったのは、戦後のことだ。きっかけは、紀伊半島から海を隔てて約2500km離れたグアム島南部で、まったく同じ病気が多発しているのが明らかになったことである。

「世界でたった2ヵ所、日本とグアムに、ALSと認知症の『多発地帯』がある」という衝撃的な発見がなされて以来、この謎に国内外の多くの専門家たちが挑んできた。

真っ先に検討されたのが、この地域の環境に、他とは違う「何か」が隠されているのではないか、という仮説である。

まず疑われたのは「水」だ。'60年代に現地調査を行った、和歌山県立医科大学の故・木村潔名誉教授は、こう記している。鮎釣りが趣味だった氏が、地域の主な水源である川を訪れた日のことだ。

〈川に着くなり、私は河原に降りて川底の石を拾い上げ、鮎が主食とする珪藻の付着状態を調べてみたが、あまりにもその貧弱なのに驚いた。(中略)水の性質に問題があるのではないかと直感した〉