日米関係を悪化させ、しかも北方領土交渉の前進も期待できない状況であるにもかかわらず、このタイミングで日露外相会談が行われたのは、安倍晋三首相と外務省が場当たり的な外交に終始し、中東情勢、米露関係、日米関係、北方領土交渉の相互連関がわからないからである。
9月15日、米国のケリー国務長官がロシアのラブロフ外相と電話で会談し、ロシアによるシリアへの軍事支援は「シリア内戦を悪化させ、過激派との戦いを弱体化させている」と非難した。
1.―(1)
シリアをめぐり、米露関係が緊張している。その引き金を引いたのはロシアだ。
<ロシア外務省のボグダノフ外務次官は8日、シリア政府軍がロシア製兵器の運用技術を習得するために、ロシアから多数の軍事専門家がシリアに派遣されていると明らかにした。インタファクス通信が伝えた。
ボグダノフ氏は、ロシアは契約に従いシリア側に武器を供給しており、政府軍がその運用に習熟するために「多くの装備や専門家を現地に送る必要がある」と主張した。またこれらの動きは「国際法に厳格にのっとっている」とも述べた。>(9月9日 産経ニュースより)。
1.―(2)
テロとの戦いという口実で、ロシアはシリアに対する軍事介入を本格化している。
<ロシア軍が、内戦の続くシリアでアサド政権軍を支援するため、戦闘に加わったことが分かった。事情に詳しいレバノンの関係筋3人が明らかにした。
ロシア軍のシリア内戦への関与拡大は米国が懸念する事態。ただ、レバノンの関係筋によると、戦闘に参加しているロシア軍兵士は、今のところ少人数だという。
複数の米当局者は、ロシアが最近シリアに戦車揚陸艦2隻や輸送機などを派遣し、少数の海軍歩兵部隊も派遣されたと述べた。ロシア側の意図は不明だという。
しかし、米当局者の1人は、シリアのアサド大統領の拠点である港町ラタキア近郊で航空基地を整備しているのではないかとの見方を示した。この基地が出撃拠点となる可能性があり、米当局者もその可能性を否定しなかった。>(9月9日 ロイターより)
2.
特に深刻なのは、ロシアがシリア軍に最新の近距離対空防御システム(高射ミサイル砲複合)パンツィーリ(ロシア語で「鎧」を意味する)‐S1(NATOコードネームでは、SA‐22グレイハウンド)を供与したことだ。
この兵器は、有人、無人を問わず固定翼機、回転翼機、精密誘導爆弾や巡航ミサイル、弾道ミサイルをも迎撃することができる。航空目標だけではなく、軽装甲車両などの地上目標も撃破可能である。シリア兵がこのシステムを運用することはできないので、実際にはロシア兵が戦闘に従事している。
ロシアによる軍事支援の結果、「イスラム国」(IS)と反政権のシリア自由軍による二正面作戦を強いられ、権力基盤が脆弱になっていたアサド政権が態勢を建て直しつつある。パンツィーリ‐S1の配備によって、シリア軍は米軍の空爆に対抗することが可能になった。このようなロシアによるアサド政権に対する露骨なテコ入れに対して、米国は反発を強めている。
3.
米国は外交ルートを通じてもロシアを非難している。
<オバマ米政権は、ロシアがシリアのアサド政権への軍事支援強化に乗り出したことで、ウクライナ情勢をめぐり顕著になった対露脅威の認識を増幅させている。シリア情勢を一段と複雑化させるばかりか、「米国に対する挑戦」とも受け止めているためだ。
オバマ政権は、シリアに装備や要員などを輸送するロシア機の上空通過を許可しないよう、周辺国に働きかけている。
これと並行して、ケリー国務長官が15日、ロシアのラブロフ外相と電話で会談し、軍事支援は「シリア内戦を悪化させ、過激派との戦いを弱体化させている」と非難するなど、阻止に躍起だ。>(9月16日 産経ニュースより)
4.―(1)
ロシアがシリアに対する軍事介入を強化している背景には、シリアからヨーロッパへの難民流出が深刻な問題になっていることがある。第二次世界大戦後、ソ連の占領下に置かれた中東欧諸国に社会主義体制が成立し、大量の難民が発生したとき以来の深刻な難民問題にヨーロッパは直面している。
西欧諸国のみならず、トルコ、湾岸諸国、カナダ、中南米諸国などもシリア難民を積極的に受け入れる姿勢を示している。これらの国々と一線を画しているのがイランとロシアだ。
・・・この続きは、佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol.069(2015年9月24日配信)に収録しています。