読書人の雑誌『本』
頑張っている人にもっと頑張れ、なんていえない。
盛岡在住の文学作家が描く、運命を変えた「巨大津波」

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『岬のマヨイガ』に至るまで

(文・柏葉幸子/児童文学作家)

東日本大震災の日から変わったこと

東日本大震災の日からそろそろ5年たとうとしています。でも、たまに地震があると、この揺れがあの時のように大きなものになるのではないかとヒヤリとしてしまいます。

東北地方はどうなってしまうのだろう?放射能で、もう住めなくなってしまうのではないか。沿岸の津波にあった町は、なくなってしまうのではないだろうか。未来への大きな恐怖と不安から、車のガソリンは、いつも満タンにしておこうとか、夜中に何かあってもすぐ避難できるように、よれよれのパジャマはすててしまおうとかいうささいなことまで考えました。

なのに、いつのまにかもどってきた平穏な日常に甘えて、着ふるしたパジャマでうろうろしている私がいます。

あの日から変わったことといえば、新幹線に乗る時は、飲む飲まないにかかわらず必ずお茶のペットボトルをかかえていることと、読みたい本を文庫本になるまで待たなくなったことぐらいでしょう。

でもこれは被災地といわれる岩手でも、私は内陸の津波の被害のなかった盛岡で暮らしているからだと思います。

震災の後、6月だったので3ヵ月ほどたっていたでしょうか。釜石市内で津波の被害が大きかった鵜住居という町の小学校の校長先生と中学校の若い女の先生からお話をうかがったことがあります。

先生方は、あの日、子どもたちの命をどう守ったか、今も傷ついた子どもたちをどう守っているのか、たんたんとお話しになるのですが、聞いている私の方がつらくて泣きださないでいるのがやっとという有様でした。

頑張ろう! 頑張ってください! という言葉が、声高くさけばれていました。でも、こんなに頑張っている方々に、もっと頑張れ!とはとてもいえませんでした。

言葉をあつかう仕事をしているのに情けないと思いながらも、「ありがとうございました」というのが精一杯でした。