現代人はなぜ「不倫」をやめられないのか。毒をもって毒を制する独創的な提言の書
【書評】坂爪真吾『はじめての不倫学』/評者 河合香織
[Photo]iStock

男性障害者に対する射精介助サービスを行う団体を主宰し、既存の価値に囚われずに新しい社会構造を生み出そうとしている著者による不倫「学」。

基本姿勢として、不倫は誰でも感染し、防ぐ事のできない強力なウィルスであり、現行の夫婦関係を維持するためには防止する必要があるという立場を取る。

しかし、いくら倫理を唱えようと、これまで社会から不倫がなくなることはなかった。であれば、不倫ウィルスに対抗する不倫ワクチンを開発せねばならないというのが本書の道筋だ。社会学や文化人類学、歴史を視野に入れ、不倫ワクチンのあり方を探っていく。

毒をもって毒を制するワクチンである以上、きれい事で終わらせない。本書が提案するワクチンは、ポジティヴな婚外セックスを行うことだ。

いわく、古代から社会には不倫を予防するワクチンが存在していた。それは「盆踊り」「歌垣」「雑魚寝」といった形での乱交だ。年に数回、一定のルールや枠組みの中で制度化された婚外セックスを行う機会があったため、日常をリセットでき、結婚を破綻させるまでの不倫に発展しなかったというのだ。

現代にも同じように対象と回数を限定し、個人間の関係ではなくシステムの下で行う婚外セックスをする場を設けられれば、不倫を防げるのではないかと著者は論じ、デートクラブ、スワッピング、ポリアモリーと呼ばれる複数恋愛などを取材する。

興味深いことに、これらを著者は「介護や育児の外部委託と同じ」と論を展開する。家庭を維持するために就労や家事や休息を行うために保育園やデイサービスの力を借りるのと同様に、婚外セックスについても考えられるのだという。ありきたりの論で終わらない、批判を恐れない独創的な姿勢に感嘆した。

是非や好き嫌い、また実践するかは別として、性とは、そして人間のあり様は多様であっていいのだと感じ、心が自由になるようだ。本書自体がすでに不倫ワクチンの効果を持っているのかもしれない。

かわい・かおり/'09年『ウスケボーイズ』で小学館ノンフィクション大賞受賞。著書に『セックスボランティア』他

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『はじめての不倫学』
著・坂爪真吾 光文社新書/820円

既婚者が、「不倫」の誘惑に抵抗するためにはどうすればいいか? 子どもや若者世代の貧困、ひとり親家庭や生活保護、高齢者の孤独死など社会問題の背景には、「不倫」がもたらす家庭破綻、それに伴う経済状況や健康状態の悪化が潜んでいる。にもかかわらず、「不倫」は個人の色恋沙汰、モラルの問題として捉えられてしまっているのが現状だ。本書では、既存の「結婚」に囚われない多様な在り方を実践している男女への取材をまじえながら、「不倫」を「社会の問題」として捉えなおすことによって「不倫」の予防と回避のための処方箋を提供する。本邦初の実践的不倫学!

さかつめ・しんご/'81年生まれ。ホワイトハンズ代表理事。社会的な切り口で現代の性問題解決に取り組む

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『週刊現代』2015年9月26日・10月3日号より