法の網の目をかいくぐり刑事をおちょくる男が目論む「完全犯罪」とは。異色のミステリー
【書評】木内一裕・著『不愉快犯』/評者 香山二三郎
[Photo]iStock

木内一裕といえば、作家デビュー作『藁の楯』の映画作品のハリウッドリメイク版がついに始動したというニュースが入ってきたばかり。

三池崇史作品とはまたスケールの異なる活劇になるよう祈りたいが、木内小説はこの『藁の楯』や『水の中の犬』に始まるヤクザ上がりの探偵・矢能政男のシリーズの印象が強くて、アクションやハードボイルド系の専科と思われているかも。

実際はコミカルなクライムノベルや時代ものも書いていて、本書も狡猾な殺人犯と捜査陣の対決を描いた犯罪小説に仕上がっている。しかも今回は“完全犯罪”をテーマにシリアスなタッチに貫かれているのが特徴だ。

東京・三鷹署は通報を受け、ミステリー作家・成宮彰一郎の妻・瑠璃子が行方不明になった一件の捜査に乗り出す。成宮はだが、夫婦仲は冷えている、どうせなら死んじゃっててほしいなどとうそぶく始末。瑠璃子が強盗殺人の前科者と会っていた痕跡も見つかるものの、やはりホンボシは亭主という線が強くなる。捜査は別件も絡んで本庁の捜査一課に委ねられ、成宮逮捕に向けて絞られていくが……。

刑事たちをバカにしたような成宮の振る舞いは限りなく怪しいが、本書の読みどころは犯人探しにあるのではない。

物語は程なく犯人視点の章に移り、その異様な犯行動機も明かされる――いわく、私が定義するところの完全犯罪とは、完全犯罪を達成した事実を世の中に知らしめることができてこそ、完全なる犯罪だということなのだ!

つまり、ただ計画的な殺人を犯して罪に問われないというだけでは気が済まないというわけで、表題の“不愉快犯”もその辺に由来している。

法の網の目をかいくぐったその奸計に、三鷹署の刑事コンビ、佐藤と兼子がどう立ち向かうかにご注目。

ちなみに、著者は既作『デッドボール』の主要人物の役柄を変えて本書に再登場させるという実験も行っている。本書は異色の姉妹篇ということで、未読のかたは、ぜひそちらも。

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『不愉快犯』
著・木内一裕 講談社/1550円

人気ミステリー作家、成宮彰一郎の妻が行方不明になった。事件性が高いと見た三鷹署の新米刑事ノボルは、先輩刑事の佐藤とともに捜査を開始。次々に容疑者候補が浮かぶ一方、警視庁本部の組対四課や捜査一課も事件に関与してくる。「どうせなら死んじゃっててくんないかなぁ…」不愉快な言動を繰り返す夫、成宮の真意とは―。完全犯罪を「完全」に描き切る、前代未聞の傑作ミステリー!

きうち・かずひろ/'60年生まれ。『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で漫画家デビューののち、映画監督、小説家として活躍

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かやま・ふみろう/'55年生まれ。SF・ミステリーなどの書評を各紙誌に執筆。著書に『日本ミステリー最前線』

『週刊現代』2015年9月26日・10月3日号より