イーロン・マスク、自腹でロケットを作る〜「スペースX」誕生の舞台裏
「次のジョブズ」はこの男だ!(2)
ロサンゼルスの空き倉庫を改造して作られたロケット工場(写真提供:スペースX)

ロシアにミサイル(=ロケット)を買いに行ったものの、すげなく断られたイーロン・マスク(前回参照)。しかし、そんなことで諦める男ではない。買えないのなら、自腹で作ってしまおう!

刊行されたばかりの伝記『イーロン・マスク 未来を創る男』より、面白すぎるエピソードをご紹介します。


最初は誰からも相手にされなかった

イーロン・マスクの壮大な計画が宇宙関係者の間に知れ渡っても、「ああ、またか」といった気の抜けた反応ばかりだった。火星協会会長のズブリンのような専門家にしてみれば、もう何度も目にしてきた光景だ。

「どこぞのエンジニアの夢物語に乗せられた億万長者がこれまでに何人もいましたから。『私の頭脳とあなたの資金を組み合わせれば、採算のとれるロケットができる。一緒に宇宙の未開発領域を切り開きませんか』といった言葉に乗せられるんです。

それで妄想エンジニアが金持ちの資産を2年くらい食い潰す。やがて金持ちが道楽に飽きてしまって、おしまい。イーロンも同じだと思った。関係者はみんながため息をつきながら、『過去の金持ちみたいに何百億円もドブに捨てるくらいなら、ネズミに10億出したほうがマシだよ』と陰口を叩いていました」

ロケット製造企業に莫大なリスクがあることは、むろんマスクも重々承知していたが、過去の失敗組と違って、成功できるはずと考える理由が少なくとも1つあった。その鍵を握るのが、トム・ミューラーという人物だ。 

トム・ミューラーという男

ミューラーは、アイダホ州の町で育った。誰もが知る相当な変わり者だったという。ほかの子供たちは冬でも森の中で元気に遊んでいるのに、ミューラーは暖かい図書館にこもって本を読んだり、自宅で『スター・トレック』のビデオを見たりする日々を送った。

機械いじりの好きな子でもあった。ある日、小学校への道すがら、壊れた時計を見つけ、修理を始める。毎日、歯車やゼンマイなど部品を少しずつ修理し、ついに時計は再び時を刻み始めた。芝刈り機を興味半分でバラバラにしてしまったこともある。
「帰宅した父が『また買わなきゃいけないじゃないか』と、ものすごい剣幕で怒ってましたね。でもまた組み立て直してちゃんと動くようになったんですよ」(ミューラー)

やがて彼の興味はロケットに移る。通販キットを買っては、小型ロケットの製作に興じた。それからほどなくして、キットではなく自分で部品をそろえて作るようになった。

12歳のとき、スペースシャトルの模型を作り上げた。ロケットに搭載して打ち上げ、最後に地球に帰還する、あの部分である。数年後には、理科の宿題で、父親が仕事に使う酸素アセチレン溶接器を借り、ロケットエンジンを試作した。

冷却方法としては、コーヒー豆の缶に水を満たし、その中にエンジンを逆さに設置した。さまざまなアイデアによって各地の科学コンテストで優勝し、国際イベントにも進出するようになる。「これで俄然やる気が出た」とミューラーは言う。

ひょろっとした風貌に面長のミューラーは、おっとりとした性格で、学生時代から友人らに発煙弾の作り方を教えていた。大学卒業後、ヒューズ・エアクラフトに入社し、人工衛星製造を担当していた。