五輪エンブレム問題 佐野氏に「表現者としての覚悟」はあったか

佐藤優メルマガ 文化放送「くにまるジャパン・発言録」より
〔PHOTO〕gettyimages

伊藤: 今回のこの佐野さんのパクリじゃないか問題なんですけれど、佐藤さんはどのようにとらえていらっしゃいますか。

佐藤: 何をもってパクリかパクリじゃないかというのは、表現をするうえですごく難しい話なんです。たとえば、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』は有名ですよね。

伊藤: はい。

佐藤: あれはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のなかに、そっくりな『一本の葱』という話があるんです。

伊藤: ええ~~~っ。お釈迦様が蜘蛛の糸を垂らすという話ですよね。

佐藤: ドストエフスキーの話はお釈迦様ではなく天使が、生前イジワルだったために火の海に投げ出された女に一本の葱を差し出して、女がそれをつかんで上がってくるんだけれど、ほかの人たちも続いて葱をつかんできたので、女が「これは私の葱だから、つかむんじゃない」と言った途端に、葱が切れて火の海に落ちちゃったというものです。

伊藤小尾 へえ~~~。

佐藤: 芥川龍之介はこのモチーフから影響を受けたと思うんですね。あるいは、最近では韓国の有名な女性作家の作品が三島由紀夫の『憂国』の内容に酷似しているんじゃないかと大問題になって、その作家は、三島作品は『金閣寺』は読んでいるけれど『憂国』は読んだ記憶がない、しかし、その自分の記憶も自信がなくなった、意識せずに使っちゃったのかもしれないと――。

伊藤: わかる気がします。多少はあることかなという気がします。

佐藤: となると、デザイナーの仕事というのは、いろいろなものを見ていないということになると、これは怠慢ですからね。だから当然、いろいろなものを見ている。そうすると、何が自分のものか、何が他人のものか、公私のケジメがしっかりしていない人だと、事故を起こすことがあるんですね。

伊藤: はい。

佐藤: 私、佐野さんについて見てみると、なんか公私のケジメがだらしないんじゃないかと思うんですよ。どういうことかというと、オリンピックのエンブレムについては、彼の首に縄をつけて無理やりやらせた仕事ではないですよね。自分から手を挙げて応募したもので、幾ばくかのおカネももらえるし、名前も有名になる。表現活動というのは、それに対して当然リスクを背負わなければいけないわけですよ。公の世界に持ってきたことによって、ベルギーの劇場のロゴにそっくりじゃないかとバッシングを受けた。もし、それが事実だったら、それを認めて撤回すればいいんですよね。事実でなければ、それは戦うべきですよ。

伊藤: 本人は今でも、べつにパクッたわけではないと、パクリを認めていないですよね。

佐藤: 認めていないんだったら、これは戦わないといけない。じゃあ、なんでそれを降ろしちゃうのか。降ろすときの理由が、自分のアカウントを乗っ取られちゃって変な登録をされているとか、家族に迷惑がかかるとか言っている。でもそれは、私的な事柄なんですよ。

伊藤: 理由にはならないかもしれませんね。

佐藤: こういうバッシングがなされるということであれば、警察に訴えればいいこと。それで取り締まってもらえばいい話で、私のことが理由なので取り下げますということは、表現者としていかがなものかなと思うんですよ。

たとえば、作家がノンフィクション作品を書いて、「お前の父ちゃんはこんな本を書いたのか」と子どもが学校でいじめられたとする。そうすると、子どもがいじめに遭うことを避けるために、この本は絶版にして本屋さんから回収してくださいというようなことは、公の世界に作品を問う表現者はやってはいけないことだと思うんですよ。

そしてこの結果、国際社会からどう見られるか。

伊藤: 日本がどう見られるかというところまで心配されますよね。

佐藤: そう。表現者というのは、自分が表現したものについては命がけで守るはずだ。しかし、パクっていないのに撤回するという。これはわかりにくいんです。本当はパクっているんだけれど、ウソをついているんじゃないかと思われるか、あるいは、日本というのは世間で騒ぎになると筋を通さないんだなと思われる。そうすると、何か約束をしても守らないんじゃないかと思われる。それがよくないんですよ。

・・・この続きは、佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol.068(2015年9月10日配信)に収録しています。

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