【特別対談】五木寛之×佐藤優 「大人の勉強」のススメいまこそ「異端の人」に学べ!

2015年09月22日(火) 週刊現代

週刊現代賢者の知恵

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「年収1億円」はあり得ない

佐藤 最近は新聞でさえ「大学の英文科でシェイクスピアなんて教えなくていい。何の役にも立たない」という主張を前提にして議論しています。しかし国際社会では、例えば『マクベス』に出てくる「きれいは汚い、汚いはきれい」というセリフが何のことか分からないと、恥をかくわけです。

橋本龍太郎さんが総理だったころ、ロシアのエリツィン大統領にタチアナという娘がいて、父の権勢を借りて好き勝手していました。それについて、橋本さんが私に「エリツィンは(娘の横暴を)分かっているのか?」と聞いた。そのとき、私はこう答えました。

「分かっていますよ。彼はリア王と同じ心境なんです」。そうしたら橋本さんは「リア王か。それなら会談の内容は全部組み立て直しだ」と。

五木 なるほど。橋本さんもなかなかの人ですね。

佐藤 橋本さんは『リア王』を読んでいるから、娘がキーパーソンだということが分かるし、その娘に裏切られるかもしれないというエリツィンの心理状態を『リア王』を通じて追体験できる。それが'97年11月のクラスノヤルスク会談につながったんです。

古典は今も生きている。「シェイクスピアは役に立たない」という議論自体、役に立たないんです。

今のIT企業経営者のように、プログラミング言語ばかりを「これからの教養だ」なんて主張するのは、「私は本を読んでいません」と公言しているようなものですよ。

五木 たとえば、マルクスの『資本論』も、私の世代は神棚に置いて拝んでる感じだったし、もっと若い人にとっては、ホコリを被った昔の本だ、と考える人も多いでしょう。しかし佐藤さんは、「今、『資本論』の考え方を身につけると、人生が楽になる」とおっしゃっている。それはなぜですか。

佐藤 今の時代は『資本論』を読むのにすごくいいと思うんです。マルクスには2つの魂があって、ひとつは共産主義革命の実現ですが、共産主義国家はうまくいかなかった。しかしもう一方で「資本主義とは何か」ということを見つめた彼の冷静な視点は、今でもすごく重要なんです。

例えば賃金。普通に暮らしていれば、ご飯を食べて服を買って家賃を払って、あとは娯楽や子育て、勉強といったことに使うわけですが、そんなに多額の賃金を貰う必要はない。「オレは頑張っているから年収1億円」ということは、あり得ないわけです。投資銀行に勤める人は年に1億も2億も儲けていますが、それはマルクスの論理で言えば、どこかで他人の労働を搾取しているということです。

今の日本人には、こういうことを言うマルクスが新鮮に映る。それを考えると、数年前にドストエフスキーの新訳版が売れたのも、実はドストエフスキーが日本人には新鮮だったからなんですね。

五木 ロシア人の世界には、神と悪魔が同居しているようなところがありますが、日本人にはそこが馴染みがないですから。

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