【リレー読書日記・生島淳】秋の夜長にオタク心からお勧めする爽やかな怪作・快作
エンジェルボール、海街diary、ドクター・スリープ

清宮幸太郎と『海街diary』の夏

2015年の夏は、私にとって清宮幸太郎と、映画『海街diary』と、スティーヴン・キングの夏だった。

甲子園の余韻を味わいたいと野球本を渉猟すると、飛騨俊吾の『エンジェルボール』がいい。すいすい読める野球ファンタジー。いや、劇画の小説版、といった方が正確かもしれない。

42歳、トラックドライバーの寺谷和章はある事故をきっかけに、特殊な能力を身につける。自分が投げたいとイメージするボールをそのまま投げられるのだ。名付けて「エンジェルボール」。

この能力を、寺谷は生まれ育った町の球団で発揮しようと決意する。広島カープだ。

寺谷がエンジェルボールを投げるときは、右腕が青い炎に包まれる。(『もののけ姫』の主人公のひとり、アシタカのイメージ)。160キロ以上の球が打たれるわけがなく、寺谷はクローザーに。しかし日本シリーズ連覇中の千葉ロッテマリーンズと対戦した時、黒い炎をまとった打者が登場する。悪魔と契約し、特殊能力を持つ打者がいたのだ!

ストーリーはゆったりしたペースで進む。「なかなか進まない感じ」もマンガに似ている。そして、大舞台で天使と悪魔は雌雄を決することになる。

読み進めていくと、この小説の魅力のひとつに「方言」があることに気づく。寺谷の実家は因島にあり、小学生の息子ふたりとの広島弁の会話が小気味が良く、それが小説全体の温かみ、ドライブ感につながっている。野球のファンタジーであると同時に「郷土愛」についての小説でもある。

それにしても作者は横浜出身なのに、どうやって広島弁をマスターしたのか? 妄想系野球ファンにオススメのシリーズであります。

今年は二日ほど甲子園に足を運んだが、暑いのなんの。涼むなら映画館がよろしい。友人の勧めに従って『海街diary』を観たら、すっかりハマってしまい、3度も映画館に足を運んでしまった。

吉田秋生「海街diary」(1)~(6)小学館

鎌倉の古い一軒家に住む四姉妹の一年を季節感を織り交ぜて描く映画だが、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずの四姉妹は文句なしに素晴らしい。となると、オタク心がムクムクとわき、原作である吉田秋生のコミック6巻、映画写真集、雑誌「SWITCH」の特集まで買い込み、徹底分析と相成った。

で、驚いた。原作を読むと、映画とはキャラクターの色合いが違う。

話が大きく動くのは、父を失った広瀬すずが異母姉たちと鎌倉での同居を決心する部分だ。この四女は、映画では基本的には受け身で、感情をひた隠しにするキャラクターだが、原作ではチャキチャキッとした少女で、仲間内では感情をあらわにすることを厭わない。