ブルーバックス
まだまだこんなものじゃない!
ノーベル物理学賞・天野先生が見つめる「青色LED」の可能性

天野浩・福田大展=著『天野先生の「青色LEDの世界」』
〔photo〕iStock

ノーベル賞受賞後、初の著書!
汗と涙とサイエンスな一冊。
ほんとうにスゴイのはこれからだ!

1500回を超える実験の末に生まれた青色LEDの本体、窒化ガリウム結晶。今では電力ロスを10分の1に減らすパワー半導体や、水問題を解決する水質浄化装置など、たんに「光る」ことにとどまらない多様な可能性に世界が注目しています。青色LEDはなぜ夢のある技術なのか、その原理と研究の最前線をやさしく紹介します。これを読めば青色LED技術の核心が分かる!

プロローグ

LEDの心臓部には「結晶」がある

「アナタガタハ、モンゴルノ、デントウブンカヲ、マモッテクレタ」

 モンゴルの教育・科学大臣が先日、私の研究室を訪ねて来たときにそうおっしゃったのです。

 どういうことかと尋ねると、モンゴルでは今でも多くの人が遊牧民として暮らしているのだそうです。「このまま伝統文化を守っていきたいが、夜になると明かりがないので、子どもたちは勉強ができなくなってしまう」と、教育上の問題に悩んでいました。しかし、今はLEDとバッテリー、太陽電池を組み合わせたランタンが、移動式住居のゲルの中を照らしているらしいのです。大臣はものすごく喜んでいました。

 自分が知らないところで、そんなふうにLEDの技術が普及していたとはうれしかった。と同時に、「より多くの人に使ってもらうには、もっと安く作れるようにしなくてはいけない」と強く思いました。

 皆さんのまわりで光っているものを探してみてください。もしかしたら、それもLEDの光かもしれません。私たちの身の回りは今、たくさんのLEDであふれています。たとえば、家や仕事場での照明。外に目を向けると、信号機や駅の電光掲示板は、LEDによって昔よりも鮮やかに見えるようになりました。

 その他にも、スマホの液晶画面を明るくするバックライトや、脱臭ができる空気清浄機の中の光触媒の技術など、最新の電化製品にも詰まっています。さらに、実用的な光だけでなく、クリスマスのイルミネーションや東京スカイツリーのライトアップなど、私たちの心を癒やすための光にも使われています。LEDは少ないエネルギーで明るく光り、省エネに貢献できるため、一気に幅広く使われるようになりました。

 そんなLEDの中を詳しくのぞいてみると、光を発する心臓部には「結晶」が入っています。結晶とは、原子や分子が繰り返しのパターンを持って規則正しく並んでいる物質のことです。

 ある寒い冬の日、空から舞い降りてきてセーターの上に乗っかった雪を眺めると、六角形に見えたことがあるかもしれません。水の分子が、自然の法則にしたがってきれいに並んでいるために、このような幾何学的な美しさが現れます。こうした雪の結晶も立派な結晶のひとつです。

 青色LEDの中には、窒素(N)とガリウム(Ga)の原子が規則正しく並んだ「窒化ガリウム(GaN)」と呼ばれる結晶が入っています。じつはこの窒化ガリウムは、きれいな結晶を安定して作ることが難しく、電気的な性質をきちんと制御できなかったため、1980年代までは多くの研究者から避けられていました。

 しかし、今では窒化ガリウムのきれいな結晶を安定して作れるようになり、そのことが青色LEDを実現させるためのブレイクスルーのひとつになったのです。