メディア・マスコミ
「超地域密着」で月間450万UU、年間売上13億円を実現――信頼と愛着あるメディアのつくりかた
オランダ最大のローカルメディア「Dichtbij」に聞く
オランダ北ホラント州の都市・アルクマールにあるDichtbij本社を訪ねた

Dichtbij』はオランダで最高で最大のローカルメディアだよ。よく見つけたね!」

フェイスブックでメッセージを送ると、すぐに担当者から返信があった。8月初めにオランダのメディア取材をするにあたり、どうしてもはずせなかったのがローカルメディアだ。

人口1700万人弱、面積は九州ほどのコンパクトな国だからこそ、地域情報を発信するメディアの役割は重要だと感じ、いちばん大きなローカルメディアを調べていたところDichtbijに出会った。

「8月3日は本社に編集者が全員集まってミーティングをする日で、4日はアムステルダムに編集者が数名集まる予定だけれど、どちらが都合いい?」

Dichtbijでは月曜と金曜は全員が本社に集まり、そのほかの曜日はそれぞれの都市で仕事をするのだという。せっかくなので、首都・アムステルダムから電車で30分ほどの距離にある北部の都市・アルクマールに構えるDichtbij本社を訪ねた。向かう途中の電車の車窓からは風車や牛が多く見られ、自然に囲まれた地域だった。

3都市からはじまり、44地域へと急拡大

Jantine van den Hoven氏。2011年入社。コミュニティマネージャーを経て、編集部門のマネジメントを担当。

訪問したのは午前9時。本社前で待っていると、今回の取材をアレンジしてくれた編集者のJantine van den Hoven氏が出迎えてくれた。彼女はコミュニティマネージャーを経て編集マネージャーとなった人物。メディアの概要や特徴をくわしく教えてくれた。

Dichtbijは2010年に開始した、地域情報を配信するニュースメディア。オランダ最大のローカルメディアとして、月間訪問数は平均で350万、最高で450万を誇り、国内44地域でサイトを展開する。1700万人弱という人口を考えれば、規模の大きさがわかる。

立ち上げたのは、2006年から2010年までTelegraaf Media Groep(以下、TMG。Dichtbijの親会社)が発行する無料の日刊紙「Spits」の編集長を務めていたBart Brouwers氏(54歳)。2010年にローカルジャーナリズムを体現するメディアをつくるために同紙を去る予定だったが、TMGが呼び止め、Dichtbijを創刊、初代編集長に就任した(現在はTMGのビジネス開発部長)。

彼のローカルジャーナリズムの根本にあるのは「ローカルニュースを届けることで、そこにある問題を身近に感じてもらうこと」。Dichtbijはまず3つの都市からはじまり、それぞれ異なる目的のもと実験的に運営した。

東部のズヴォレではアグリゲーション、ウールデンではソーシャルメディアを通じたコミュニティづくり、南部のアイントホーフェンではオリジナル記事とスポンサード記事――現在のDichtbijではこれらの要素が重要になるため、この3都市のノウハウがその後の拡大に大きく貢献した。

開始から2年後の2012年からは売上が1,000万ユーロ(約13.6億円)を超え、注目のローカルメディア事例として取り上げられるようになった。現在が約80名のチームで運営し、30名ほどの編集者がいる。オンライン単体のローカルメディアとしてこれだけのスタッフを抱える事例は珍しい。

そもそもTMGはオランダを代表する大手メディア企業であり、全国紙「De Telegraaf」、ラジオ局「Sky Radio」、セレブゴシップ雑誌「Prive」、出会い系サイト「Relatieplanet」などを展開し、100近くのメディアやサービスをもつ。

TMGでは紙媒体が主戦場のため、2014年7月からはTMGのもつローカル新聞・雑誌のなかでウェブ版がない媒体についてはDichtbijに一部記事を転載し、新聞購読につなげようとしている。逆に全国紙De Telegraafのウェブ版にはDichtbijの最新記事5本が自動的に掲載され、紙とウェブで相互に連携している。

Dichtbijのトップページ。自分が住む地域や気になる地域を選択すると、それぞれの地方版に進む

44地域に展開するDichtbijの記事は、ローカル、スポーツ、ビジネス、速報ニュースが中心だ。多くの地域に編集者と広告営業が1人ずつ付いているが、地域住民らがコンテンツを投稿できるUGC(User Generated Content)機能も設けられている。この背景には、オリジナル記事だけでは採算が取れないこと、(ローカルな)速報ニュースをカバーするには読者による情報提供が欠かせないという考えがある。

読者が投稿できるのはテキストや写真、動画(YouTubeリンク)で、速報ニュースやイベント、グルメ、求人、不動産などの情報が寄せられる。読者からの投稿やアグリゲーションだけで成り立っている地域もあるという。プロの記者・編集者と市民によるコンテンツが混じることで、新しいメディアのかたちをつくろうとしているのだ。

今回、編集者とコミュニティマネージャー、速報ニュース担当の3名に話を聞くことができた。Dichtbij」とは英語でいう「Close by」。つまり、「近くに(で)」という意味であり、メディア名を体現するような読者との距離の近さを実感した。そんなローカルメディアの理想的なかたちを模索・実現しつつ、しっかり売上を立てているのがすばらしい。

編集者のvan den Hoven氏によれば、収益のほとんどがバナー広告によるものだという。「地域に密着するメディアとして信頼されていることで、1~2年の長期契約でバナーを販売でき、安定した売上につながっています」。バナー広告以外にもスポンサードコンテンツも存在する。カテゴリによって本数にバラつきがあるものの「全記事の10%以下」だという。

地域によっては方言や慣習が異なるため、各地域の担当者がスポンサード記事を制作している。Dichtbijでは当初、編集者がスポンサード記事をつくることが多かった。だが、TMGでは紙媒体を多数発行しているため、次第に編集と広告の分離を徹底するようになったそうだ。

本社のすぐ近く。人や車が少なく静かな田舎だった
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