日本一の書評
2015年09月16日(水) 週刊現代

平凡な青年に連続殺人鬼が訴える「冤罪」の真実とは? 悪魔的なサスペンスに酔いしれる

【書評】櫛木理宇・著『チェインドッグ』/評者 大森望

週刊現代
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〔PHOTO〕iStock

獄中の連続殺人鬼からの依頼によって物語が動き出す――というのは、デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』はじめ、海外のサイコサスペンスでは一種の定番。

しかし、同じことを日本でやるとなると、なかなか説得力を持たせにくい。この難題に正面から挑戦し、みごと成功をおさめたのが、櫛木理宇の書き下ろし長編『チェインドッグ』。

作家になる前から、国内外のシリアルキラーを(趣味として)調べてきたという著者だけに、数々の実例を踏まえつつ、リアルかつ不気味な犯人像を構築。平凡かつ(読者が共感しにくいほど)ダメな大学生を主人公に起用して、凡人が悪魔に魅入られてゆく過程をスリリングに描き出す。

筧井雅也は底辺大学の法学部に通う3年生。小中学校では優等生だったため、プライドだけは高くて周囲となじめず、授業にも学生生活にも就職活動にも身が入らない。そんな雅也のもとに、ある日、“日本のテッド・バンディ”とも“戦後最大の連続殺人鬼”とも言われる榛村大和(42歳)から手紙が届く。

24件の殺人容疑で逮捕された榛村は、そのうち9件で有罪となり、一審判決は死刑。被害者は16歳から18歳の男女高校生だが、最後の1人だけは23歳の成人女性だった。拘置所の面会室を訪ねた雅也に向かって、榛村は言う。最後の事件だけは冤罪だ。無実であることを証明してほしい……。

雅也は小中学生の頃、榛村が店主をしていたパン屋の常連客だった。優等生だった自分しか知らない榛村の頼みを断り切れず、雅也は事件について調べはじめる。関係者への取材を通して少しずつ明らかになってゆく榛村の過去と、事件をめぐる人間模様……。

調査の過程で、雅也が自分と向き合い、少しずつ自信をとりもどしてゆく趣向もおもしろい。やがて意外な事実が次々に明らかになり、どんでん返しが連続する。

いやもう、振りまわされすぎて最後はぐったり。綾辻行人が帯に寄せた“抜群のリーダビリティ。巧妙にして悪魔的なプロット!”の讃辞にウソはない。

おおもり・のぞみ/SFアンソロジストとしても活躍。共著で『サンリオSF文庫総解説』『文学賞メッタ斬り!』他

『週刊現代』2015年9月12日号より

* * *

『チェインドッグ』
櫛木理宇著
早川書房 1700円

鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人犯・榛村大和からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」そう訴える大和のため、事件の再調査を決めた雅也。パン屋の店主だった大和の人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也は大和に魅せられ始める。一つ一つの選択が明らかにしていく残酷な真実とは?俊英が描く傑作ミステリ登場。

くしき・りう/'72年生まれ。'12年「赤と白」で小説すばる新人賞受賞。著書に『避雷針の夏』『寄居虫女』他

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