ナンパの快楽と憂鬱
〜コミュニケーションに「マスターキー」はあるか?

特別対談 聞き・書き・生きる(後編)
〔photo〕iStock

800人を超える人たちと濃密な対話を重ねたインタビュアー尹雄大(ユン・ウンデ)と、ナンパ・催眠術をへて新しい心理療法のかたちを探る気鋭のカウンセラー高石宏輔。意外なことに二人とも、コミュニケーションは大の苦手だったという。いったいどうやって現在の境地に達したのか? (→前編はこちら

そもそもナンパの目的は?

:高石さんの著書『あなたは、なぜ、つながれないのか』では「つながれなさ」について多角的にアプローチされています。人とつながれない際、高石さんの中でもっとも湧き出てくる感情や感覚は何ですか? 

高石:一番は寂しさですね。感情と呼んで良いのかわからないですけど。それが一番大事というか、その中に突入していったときにいろいろな物が見えてくるというか、天啓というか、自分の中で「人って……」って思った時はやっぱりナンパをし始めたときなんですよ。いろんな人に無視されて「みんな勝手だ!!!」って思って(笑)。

:それは勝手すぎますね!

高石:アルバイト先の喫茶店で、メニューにないガトーショコラの注文を通してしまうような25〜6歳の男の子、というか世の中を知らない人が、こんなに勇気を出して一生懸命声をかけたのに、相手は完全に無視するわけじゃないですか。勝手だなと思うわけです。

その時、「あ、誰も助けてくれないんだ」っていう地平にパッと立った瞬間に「もうやるしかない」ってスイッチが入ったんですよね。

:そもそもナンパの目的は何ですか?

高石:僕はもうナンパはしないですけど、目的は「僕が間違っていないことを証明すること」ですね。すごく利己的ですけど。みんな人を助けないんだってところから始まってるわけです。無視するわけじゃないですか。人と話せないから話そうとしているのに無視されて、なんてことだと思う。

自分だったら困っている人が話しかけてきたら、「何かあったんですか?」ってその当時でも応えるという感じがあったんです。

それにも関わらず、みんな無視する。どういったことだ、と。じゃあもう絶対無視させないという感じが内側からわき上がってきて、やって、無視されなくなった時に、僕はきっと何かを理解するだろうと思っていたんです。

:それは友だちではダメなんですか?

高石:友だちだと違うんですよね。まったく知らない人が僕の話を聞くということに意味があったんです。同じ学校で隣同士に坐った人に「ちょっと消しゴム貸してくれない」と言って消しゴムを借りた、というのでは満足しないんです。

これは矛盾しているかもしれないのですが、「きっと無視するだろうなという人に話しかけて無視させない」ということがしたいんです。消しゴムはきっと借りられるじゃないですか。そこには技術がない、と思ったんです。

無視するかもしれない人を無視させないことで、自分がガトーショコラ時代にできなかったことを網羅できると思って。

「こんにちは」って話しかけるじゃないですか。それに対していろんな無視のされかた、返事のされ方があります。はじめたときは、それをノートに書き出して、パターンを全部記録していったんです。そしてそれに対する正解の選択肢をまたノートに書いて、「また明日行くぞ」と準備します。

で、翌日「こんにちは」って言って、無視されて、考えておいた言葉を言ってみて、また無視されたり、少し対応してもらえたりする。そしてまた無視されたらこう言うっていうのを考えて……と、くり返し練習し続けたんです。