作家・中脇初枝さんが選ぶ「わが人生最高の10冊」

他者の心を理解できる“本の魔法”
週刊現代 プロフィール

2位の『子どもへのまなざし』は、私が大人になって、子育てを始めた頃に出会った本。この本と著者の佐々木さんに出会えたおかげで、子どもはもちろん、自分や他者も愛することができるようになった気がします。

乳幼児期の子育ての大切さを述べた本ですが、それを読むと、まず自分自身、すごく愛されて育ったんだということが再認識できた。

他者についても、「ああ、この人はきっとこういう風に育てられたんだろうな」と、どんな人でも嫌いになれなくなったというか、許せるようになりましたね。

それがのちに、私が『きみはいい子』や『わたしをみつけて』といった小説の中で、傷つきながらも生きていく大人を描くベースになりました。

無限の想像力に引き込まれる

3位の『大地』は、本のない我が家で、唯一、母が自分の本として持っていた作品なんです。「これはノーベル文学賞を受賞した本なんだよ」と母が教えてくれたので、小学校の高学年で初めて読んだ時には、「これは世界一の本なんだ」と固く信じていましたね(笑)。実際、読んでもすごく面白くて何回も読み返しました。

ただ、ネタバレですが後半に一ヵ所、間違いがあって、その場にいないはずの人物が、一人増えているんです。それに気づいた時、私は「世界一の作家で、こんな壮大な物語を書く人でさえ間違いをするのだから、私も何か書けるかも」と背中を押された気がしました。

5位の『吾輩は猫である』は、私のデビュー作が坊っちゃん文学賞を受賞したから選んだわけではないんです(笑)。高校生の頃に夏目漱石にハマって片っ端から読んだのですが、中でもこの作品は、「気難しそうな漱石が、なんでこんなに面白い文章を書くんだろう」と惹かれたんですよね。

主人公が、自分の娘が目の前で喧嘩を始めたりしても、何もしないでじっと見ている。どこか自分は当事者じゃないというような、浮いた感じが好きですね。大人になって妻目線で読むと「ふざけるな」と思うけど(笑)。高校3年生の時、初めて小説『魚のように』を書いたんですが、文体などは漱石の影響を強く受けてます。

今回、挙げた作品は、何かしら自分の仕事や生き方にかかわったものですね。7位の『赤い高粱』は、日中戦争下の中国を舞台にした小説ですが、著者は戦後生まれ。しかも、「舞台になった土地に赤い高粱は生えてない」と言っているのを知ったときは、本当に驚きました。それでも、赤い高粱としか言いようのない世界を書き上げている。人間の想像力は限りない、小説には限界がないんだと教えられました。

私にとって、読書は知らない世界を知る、別人になるということ。自分の人生は私しか生きられず、私の目からしか見られない。でも、本なら別の人生を見られる。本当に素晴らしい体験です。

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【最近読んだ1冊】

佐々木正美・著
『どうか忘れないでください、子どものことを。』
ポプラ社 税別価格:1200円

「自分の心の成り立ちを見つめ直す、きっかけになる本。大人たちに忘れてほしくない『子ども』とは、かつての自分自身のことでもある。子育てを必死で頑張っている親たちに対しても、心から優しくなれると思う」

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(構成/大西展子)
『週刊現代』2015年9月5日号より

なかわき・はつえ/'74年、徳島生まれの高知育ち。『魚のように』で坊っちゃん文学賞を受賞し17歳でデビュー。'12年、『きみはいい子』で坪田譲治文学賞。近著『世界の果てのこどもたち』(講談社刊)