作家・中脇初枝さんが選ぶ「わが人生最高の10冊」
他者の心を理解できる“本の魔法”

家には本棚がなかった

私は両親ともに公務員だったのですが、単身赴任あり、引っ越しありでものすごく忙しく働いていて、親は本を読む暇もなかったんでしょう。家には本棚がありませんでした。

3歳で保育園に行くようになって、やっと本を手に取るようになったのですが、ものすごい勢いで保育園にあった本を読破していきました(笑)。

小学校に入ってからもずっと図書館で本を読んでいましたね。当時好きだったのはドイツのプロイスラーが書いた『小さい魔女』などでした。

2~3年生の頃に出会ったのが、4位の『幡多のむかし話』です。全編、地元・高知県の幡多弁で書かれているのですが、まさに今、自分が喋っている言葉が、そのまま本になっている。そのことがすごく嬉しかった。

同時に、昔話というものが、どこかの遠い世界の夢物語ではなく、自分の暮らす地域で、自分に繋がる人々が伝えてきたものなのだと実感しました。

1位に挙げた「遠野物語」は、小学校6年生の時に、学級文庫で読みました。読み始めてすぐ、衝撃を受けたんです。明治時代に、岩手県の遠野郷に伝わる膨大な民間伝承や風俗習慣を、民俗学者の柳田国男が記録した本なのですが、何てすごい世界があるんだろう、将来はこういう勉強をしたいと強く心惹かれました。私を民俗学への道へ導いてくれた一冊です。

私は子どもの頃から、枝葉末節が好きというか、魔女を倒して世界を救うなどという大きな話ではなく、嫁と姑の仲が悪くなったとか、座敷童がいなくなって貧乏になったといった小さな話に魅力を感じるんです。柳田の記録した、人々の生活に密着した伝説や伝承から、人間が生きるとはどういうことなのかを初めて教えられた気がします。