読書人の雑誌『本』
『進撃の巨人』の英訳者が明かす、世界的大ヒットの理由

世界を虜にする『進撃』のテーマとは

(文/Ko Ransom・翻訳者)

進撃の巨人の「壁」と言語の「壁」

『進撃の巨人』が私の心をつかんで離さない主な理由の1つに、世界が差し向けるさまざまな制約や困難に登場人物たちが立ち向かい、乗り越えていく姿が挙げられる。

それは人類が巨人を倒す方法から壁の中で生きる術、果ては世界の謎を解き個人的な葛藤をどう解決するかに至るまで、実に多くある。大げさな対比をするならば、このテーマは私自身の日英翻訳者としての体験と共鳴する。

アメリカ人と日本人の両親の元、アメリカの家庭に生まれた私は、幼少の頃から日本のポップカルチャーに強い興味を持ち、それを友達と共有したいという欲求が強くあった。

自然と、自分がそのとき楽しんでいる日本のマンガ、ゲーム、おもちゃについて、学校で翻訳し説明するようになっていた。他の生徒の関心を集めるのは簡単で、私が紹介したたまごっちやポケモンなど、後々アメリカで爆発的にヒットしたものも少なくなかった。

小学生のときからすでに、私は言語の違いがもたらす「壁」について理解していて、何かをあるひとつの言語と文化から他のそれに翻訳する際は注意して扱わなければならないことをよくわきまえていた。その意味では、翻訳を選んだのは自然のなりゆきのように見える。だが、この仕事にたどり着くまでは、いくつもの紆余曲折があった。

大学卒業後、私は横浜にあるアメリカ・カナダ大学連合日本研究センターで1年間勉強する予定だったが、最後の数ヵ月は2011年3月11日の大震災で断ち切られてしまった。震災によって何も被害を受けなかった幸運な1人ではあったものの、行われるはずだった授業はすべて中止された。