読書人の雑誌『本』
「しんがり 山一證券最後12人」のそれから
20日より江口洋介主演でTVドラマ化!

「しんがり人」のそれから

文/清武英利(ジャーナリスト)

消滅する会社に踏みとどまった男たち

『しんがり』を書き始めて数ヵ月が過ぎ、迷路のようなところに入り込んだ。

「いまさら、山一證券の破綻を取り上げる意味があるのか」

出版社のベテラン編集者がそう言っているというのだ。書き手として独り立ちした翌年のことで、読売新聞グループとの間で片手に余る訴訟を抱えていた。そんな時期、ことさらに「書く意味」を問われ、私は珍しく考え込んだ。

ある日、敬愛する植村直己の『青春を山に賭けて』(文春文庫)を手に取った。あとがきを読み返しているうちに、山は他人のためではなく、自分のために登るものだと思う、という趣旨の一文が目に留まった。チーム登山よりも単独行を好んだ彼は、こう文章を続けている。

〈誰からも左右されない、自分の意志ひとつで行動できる単独行であれば、それが人のためではなく自分のためであればあるだけ、すべてが自分にかえってくる。喜びも、そして危険も〉

当たり前のことなのに、それを読んでずいぶん楽になったことを覚えている。私もある意味で、自分のために書こうとしているのだ。

山一の「しんがり」として戦った嘉本隆正・元常務や菊野晋次・元理事という男たちに、私は確かに惹かれていた。消滅する会社に踏みとどまった彼らの苦痛や屈辱、喜び、心に秘めた固い芯を知りたいと思った。だが、彼らを訪ねて話を聞くことは、そのころの私の喜びであり、慰めでもあった。

嘉本さんはほぼ無給で山一崩壊の真相究明と清算業務にあたった硬骨漢である。彼は私の心の揺れが分かっているようで、どんなときにも丁寧に取材に応じてくれた。そして、「嘉本という人物を多くの人に知ってもらいたい」という私にこんなことを言った。

「私にはさらさらそんな気はありません。どんな意味でも、私を世間に知ってもらうような価値を認めません。恥多き人生ゆえ恐いことですが、良いことも悪いことも客観的に見つめようという、ノンフィクション作家の行動力に敬服あるのみで、その一点でお答えしているのです」