潜在的な失業率は14%
日本経済の「時限爆弾」が爆発する日

野口悠紀雄 
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授

 日本経済は死に近づきつつあるといっても、過言ではありません。

 日本経済が落ち込んだ原因は「米国の金融危機」と考えている人が多いのですが、それは正しくありません。落ち込みのきっかけを作ったのは金融危機ですが、そこに至るまでに極端に外需に依存してきた日本の産業構造そのものに根本的な原因があります。

 戦後最長と言われた02年から07年にかけての日本の景気回復は、米国のバブルに乗ったものでした。米国の住宅価格が高騰した結果として日本の輸出が伸びるという現象が起こっていたのです。

 たとえば、ローンを組んで50万ドルで買った家が60万ドルに値上がりしたとします。アメリカ人はその値上がり分を担保にしてさらに10万ドルを借り入れ、自動車購入などにあてた。その恩恵で日本車の売上が伸びたのです。

 また、1ドル=110円~120円程度と名目レートがほとんど変わらなかったことが、輸出産業にとって強い追い風となりました。

 米国では物価が年率3%で上昇していたのに対し、日本ではほとんどゼロだった。このため、名目レートが変わらなければ、実質的には円が安くなる。名目レートが不変で物価上昇率が3%違えば、10年間で30%以上日本製品が安くなったことになります。これが日本製品の価格競争力を著しく高めたのです。

 しかし、バブルは崩壊してしまった。通常の景気循環とは異なり、一度崩壊したバブルを再生させることはできません。為替レートをみても、再び07年当時のような円安に戻ることはない。

 したがって、日本経済が景気回復前、すなわち02年以前の水準に戻るのは自明です。数字でいえば、ピークだった07年頃に比べ、輸出額は30%程度、鉱工業生産指数は20%程度落ち込んだ水準が当分続くでしょう。GDPでいえば、2%程度落ち込んだ状態になります。

 ただし、これは自動車購入支援などの経済対策で支えられたものであり、その支えがはずされれば、事態はさらに悪化します。

新興国へのシフトは自殺行為だ

 こうした事情があるので、「中国など中間層の台頭が目覚ましい新興国に輸出をシフトすればよい」という意見が強く唱えられています。しかし、これは日本の自殺行為です。

 日産自動車は中国での事業が伸びていると言われますが、1台あたりの利益は、米国での販売に比べて半分以下にしかなりません。しかも、これは中国の安い労働力を使って生産した結果です。

 仮に日本国内の生産で新興国の最終需要に対応しようとすれば、日本の賃金は中国並に低下します。新興国市場では、韓国や中国のメーカーと低価格競争をしなければなりません。製品価格を下げるだけでなく、賃金も下げなければなりません。

 今、日本はデフレが深刻な問題だといわれますが、その基本的な原因は新興国メーカーとの競合です。低価格競争を続ければ、ますます賃金は下がり、デフレはさらに深刻化する。

 こうした事態を打開するには、産業構造を転換するしか方法はありません。具体的には、製造業依存から脱却し、先端的IT産業や金融業の比重を高めることです。

 米国や英国は脱工業化を図り、ITや金融などの先端分野で経済を成長させています。日本でも、グーグルやアップル、アマゾンのようなIT企業、ゴールドマン・サックスのような金融企業を育てることが急務なのです。

 先端企業を作るには、何より優秀な人材が必要です。しかし、残念ながら日本では、ビジネススクールなど高度の教育に対して何も支援策を講じていません。民主党政権も、子供手当てや高校無料化を行なうだけです。

 私の試算では、ビジネススクールの学生をアメリカ並みに増やすために授業料を全額補助したとしても、必要な費用は450億円ほど。「子ども手当」の満額支給に必要な5兆円の10分の1以下の財源で済むのです。

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