事件解決後に現れた猟奇殺人の模倣者、その衝撃の正体とは? 魂が震えるミステリーの傑作!
竹吉優輔『襲名犯』文庫版刊行記念インタビュー

竹吉優輔×杉江松恋
乱歩賞作家、襲名披露。

杉江松恋さん(左)と竹吉優輔さん

第59回江戸川乱歩賞を受賞した『襲名犯』が、2年の時を経て、ついに文庫化されました。その魅力と背景とは?――衝撃のデビューを果たした著者の竹吉優輔氏に、手練れの書評家・杉江松恋氏が迫ります。

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三度の挑戦で乱歩賞を獲得

―竹吉さんは乱歩賞に3回応募されているのですね。

竹吉 最初は第55回です。当時は身体を壊して入院していたもので、あまり取材ができず、自分が以前通っていた大学院と、病院を舞台に使って書きました。それが一次を通ったのでちょっと自信を持ったのですが、よく知っている世界だけを書いていてはいずれ引き出しはなくなってしまう。

だから次の応募作は自分の全然知らないことを題材にしようと思ったのですね。そこで思春期の女の子を主人公にした一人称の語りの小説で、第57回に挑みました。それは二次を突破しました。「では、一作目の『自分の知ってる世界』と二作目の『全然知らない世界』を混ぜてみよう」と書いた三作目が『襲名犯』でした。「図書館」という熟知したものと、「猟奇殺人」という未知のものを掛け合わせたわけです。

―応募原稿版では登場人物のモノローグが多かったのが、本になったときにはかなり削除されて文章が引き締まったという印象があります。

竹吉 応募時には、主人公は南條仁であると共に街全体でもある、という思いがありました。仁の心を深く掘り下げるのと同時に、その背景で街が変わっていく様をも克明に書こうと。ただ、だらだら書くよりは文章を圧縮したほうがより効果があるということに、後から気づきました。

―竹吉さんの作品は、アイデンティティを喪失した青年を主人公として、彼の存在の揺らぎを描くことを中心に据えています。成長小説の部分が前面に押し出されているのがミステリーとしてもたいへんおもしろい点ですが、その特徴は、改稿によってどう変化したと自己評価されますか?

竹吉 言葉を圧縮し、それ以外の部分をしっかり書くことによって、主人公の内面描写は逆にソリッドになったのではないかと思っています。

―なるほど。私は、応募時の「ブージャム狩り」というタイトルが実は気に入っていました。連続殺人犯の異名であるブージャムの元は、ルイス・キャロルの「スナーク狩り」という詩に出てくる言葉で、取り返しのつかない恐怖の象徴です。あの一語はどこから思いつかれたのですか。

竹吉 犯人である新田秀哉の最初のモデルは、実在する連続殺人犯のテッド・バンディ(米国人。1989年に死刑執行)なんです。アメリカ的な底知れない闇しか感じない殺人者を漠然と想定していました。ただ、得体の知れない人物にしろ、名前だけは与えようと。本名ではなくて、ただ殺す、ただ存在をかき消すもの、と考えていて、ふと「ブージャム」が浮かびました。「そうだ。昔読んだ本に出てきて怖かった」と。

―刊行時にはその題名が『襲名犯』に変わりましたね。

竹吉 最初は『襲名者』だったんです。仁という兄の代理の地位を襲名せざるを得なかった人間と、「ブージャム」を襲名したがっている人間。その二つを対比するために「襲名」は絶対に入れたいと思いました。ただ、『襲名者』だとちょっと犯罪ものだと思ってもらえない可能性があるので、『襲名犯』という言葉を造った次第です。