第10回ゲスト:渡辺新さん (前編)
「壹番館は、代が変わっても"銀座の商い"と"職人仕事"が基本です」

〔写真〕峯竜也 〔構成〕小野塚久男 〔撮影協力〕Ne Plus Ultra 銀座店

若き日のシマジも憧れた「成功者の館」

島地 おい、日野! お前はシマジ担当も長いんだから「ビスポークテーラー」くらいは知ってるよな。

日野 担当ですから著書にはすべて目を通してます。日本語に訳せば「注文服洋品店」でしょうか。

島地 ファッションとは縁のなさそうなお前にしては上出来だ。日本を代表するビスポークテーラーの老舗といえば、これはもう銀座の壹番館洋服店が筆頭だ。その三代目社長が今回のゲスト、渡辺新さんです。

いやしかし、会うたびに思いますが男前ですね。役者になっても売れたんじゃないですか?

渡辺 とんでもない。島地さんこそ、会うたびに男の色気が増しています。

島地 男の色気! そう、男も女も、本物の色気というのは、いろんな経験を積んではじめてにじみ出てくるものなんですね。壹番館の主人からそういっていただけると、散々浪費しながら歳を重ねてきたかいがあります。

日野 浪費にも程があるとは思いますが・・・。島地さんと壹番館の接点はどんな感じだったんでしょうか?

渡辺 前にうかがったことがあります。たしか作家の柴田錬三郎さんのお供で来店されたのが初めてだったとか。

島地 そう、あれは26歳の秋だから50年近く前の話ですが、葉巻をくわえて仮縫いをしていたシバレンさんから、こういわれたことを今でも覚えています。

「シマジ、お前も将来、この店で仮縫いをするような男になれよ。功成り名を遂げた成功者は必ず、壹番館で洋服を仕立てるんだ」

日野 そして、エラくなってから実現した、と。

島地 決意はしたんだが、いざ、そういう立場になったとき、わたしの興味はダンディズムに向いていて、本物のダンディズムを理解するには、やはり「サヴィル・ロウ」(ロンドンにある仕立て屋街)でスーツを仕立てなくちゃいかんだろうと、海を越えてしまった。次に壹番館を訪ねたのは、相当に時間が経ってからでした。