読書人の雑誌『本』

カレーライスはなぜ日本人の「国民食」になったのか

森枝 卓士
このエントリーをはてなブックマークに追加

気がつけば私は「カレー大王」になっていた……

ところで。この本を書いた時には、あまたあるテーマの1つ、1冊の本のテーマというぐらいにしか考えていなかった。ところが、カレーは筆者を離してくれなかった。

今でこそ、カレーについて書かれた本など多数ある。多くの料理人が、ライターが様々な視点から書いている。しかし、当時はさほどでもなかった。そして、カレーをふつうとはちょっと違う視点から見るというところが面白がられたのか、本を書いたあとで、様々な依頼を受けた。レシピ本を書け。テレビ番組でレポートをしろ、料理をしろ。

中でも、「dancyu」という食の雑誌。カレー絡みの企画に、「カレー大王の森枝さん、インドに……」というようなタイトルを付けたものだから、それから長いこと、「カレー大王」という尊称だか、からかいだか分からぬものから、抜けられなくなった。

そして、極めつけと言えるのが『華麗なる食卓』というマンガである。「ヤングジャンプ」という青年漫画誌でそのような連載をはじめるので監修をしてくれといってきたのだ。マンガの監修とは何をするものだか分からぬところから、なんと十年以上、付き合ってしまった。『美味しんぼ』や『クッキングパパ』のように様々な食を扱うマンガならいざ知らず、カレーだけのマンガがそんなに長く続くことになろうとは……。

人後に落ちぬほどカレーを作り、食べてきたつもりだったが、気がつけば、カレーに食べさせてもらっていたというオチである。

もうひとつ。新書の最後を次のような言葉で締めくくっている。

(前略)日本の伝統文化の担い手であるはずの今上天皇も「お好きな食べ物は」という質問に、カレーライスをあげている。(中略)

カレーはすでに日本料理なのである。

その想いは今も変わらぬが、今上にとって、「気をつかわないで欲しいという気遣いの象徴」がカレーでもあるようだった。

その気遣いから三代も遡り、130年以上前の、明治10年代から天皇家ではカレーを食されていたのだと、カレーと食に関わり続けて来たために知ることになる。

そして、今回、学術文庫に加えてもらえることになり、改めて、また、このような事を記すことが出来て……。

読書人の雑誌「本」2015年9月号より

森枝卓士(もりえだ・たかし)
1955年、熊本県水俣市生まれ。国際基督教大学で文化人類学を学ぶ。写真家、ジャーナリスト。大正大学客員教授。早稲田大学などでも食文化を講じる

* * *

森枝卓士『カレーライスと日本人』
講談社学術文庫 税別価格:900円

アジア全土を食べあるき、スパイスのルーツをイギリスに探り、明治文明開化以来の洋食史を渉猟した著者が、カレーの謎を探った名著。

 => Amazonはこちら
 => 
楽天ブックスはこちら



 ★ アーカイブ記事が読み放題
 ★ 会員だけが読める特別記事やコンテンツ
 ★ セミナーやイベントへのご招待・優待サービス
 ・・・など会員特典あり

お申込みはこちら

記事をツイート 記事をシェア 記事をブックマーク