合理的に説明できないビジネスこそ面白い──スープ専門店・スマイルズが「現代アート」に挑む理由

2015.9.2 WED

世の中の体温をあげる――。

そんな言葉を掲げて、ちょっとユニークな4つの事業を展開するスマイルズ

ファーストフードというかたちで温かいスープを提供する「Soup Stock Tokyo」、キュートでユニークなネクタイブランド「giraffe」、使っていた人の顔が見える現代のセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、家族の思い出を彩るファミリーレストラン「100本のスプーン」……

スマイルズが運営するお店に訪れてみると、一般的なファーストフード店やリサイクルショップ、ファミレスとはどこか違う空気、言ってみれば“人の体温”のようなものを感じる。

全国に約70店舗を構えるSoup Stock Tokyo 慌ただしい生活を送る現代人に「ファーストフード」として食べるスープを提供する(提供:スマイルズ)
「すごく愛用していたけれど今は使わない、でも捨てるのは惜しい」―そんな品物に持ち主の顔写真とプロフィール、品物にまつわるストーリーを添えて販売するユニークなリサイクルショップ「PASS THE BATON」。京都の祇園に3店舗目がオープンしたばかり。(提供:スマイルズ)

私は個人的に、編集者の仕事は、面白いと思ったヒト・モノ・コトに温度を加えて世の中に伝えることだと思っている。だからこそ、スマイルズの「世の中の体温をあげる」事業は一つの編集作業であり、スマイルズは“メディア”なんじゃないか。そんな思いで、中目黒にあるスマイルズのオフィスを訪ね、社長の遠山正道さんに話を聞いた。

すると飛び出したのは、現代アートの話。なんとスマイルズはいま、アーティストとして「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ2015」に作品を出品しているという。企業がアーティストとして表現活動をする――まさに、「メディア化する企業」とも言えるかもしれない。前編はスマイルズがアーティストになったきっかけ、作品に込めた思いに迫る――。(文・徳瑠里香/写真・岩本良介)

アート表現もひとつのメディア

「メディア」というのは媒介という意味だと思うのですが、「表現」という言い方もできると思うんです。私にとっては、アート表現もあらゆる情報を媒介するメディアです。

企業がアートをやるなんて、出費はあるけど利益は出ない、手間もかかるしリスクもある。合理的な説明もできないし、企業側から見てもアート側から見ても違和感しかないんですが(笑)、結果はあとからついてくると思って、やりたいからやっています。

やりたいことをやるという、合理的な説明なしで現代アートに挑戦したわけですが、手ごたえは感じています。50日間の開催で、口コミで人も集まってきていてリピーターも多く、体験した人の反応もいい感じです。

現代アートといっても、芸大卒のアーティストと同じ視点で表現をしても仕方ないので、企業としてのスマイルズの視点で作品をつくりました。

「世の中の体温をあげたい」スマイルズの必然性として、作品に「食と技術とおもてなし」というコンテクストを敷いています。食は、まさに私たちがSoup Stock Tokyoで提供しているスープ。技術は、デンソーのロボットを借りています。世界に誇れる日本のすごい技術を使って表現をしたかったんです。おもてなしは、生身の人間にしかできないちょっとしたパフォーマンスを。ここに私たちが一番表現したい、サービス業に大切なおもてなしの心やそこから得る喜びを詰め込んでいます。

私たちが展開しているお店では日頃、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」とお客さまに声をかけているわけですが、逆にお客さまから「ありがとう」と言われるとすごく嬉しくて、1日の疲れがふっ飛んでしまうことがあるんです。こういう喜びのために仕事をしているんだよ、と。

それがサービス業の醍醐味だったりするのですが、それは言語化も可視化もできない。あえて言葉にするのなら、「感謝」とか「人と人とのやりとり」とも呼べるものを作品のなかに込めたかったんですね。しかも、「ありがとう」でもなく、日頃の飲食店での接客では使わないありえない表現で。

作品としてスープを出す

作品タイトルは「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」。テーマは文字通り、スープでお客さまのハートを射抜くことです。

廃校になった小学校が舞台で、まずは入り口で作品(スープ)を購入してもらい、教室に入ると、彫刻のようなロボットが動きだします。初めはミケランジェロのシスティーナ礼拝堂のアダムと神に着想を得ていてちょっと艶かしいんです。その後は“ロボットらしい”6軸の動きでスープをかき混ぜたり、バルサミコ酢を噴射したりするんですよ。

提供:スマイルズ
提供:スマイルズ

うちのスタッフも作品の一部で、“人間らしく”ハートを射抜くあるパフォーマンスをします。どんなパフォーマンスをするかは、作品で体感してもらいたいのでここではお話できません(笑)。そして最後に、控え室でお客さんにスープを食べてもらう。そこまでが作品なんです。

実際に体験したお客さまは、感想を伝えてくれる人もいれば、無言で何かを感じている人もいれば、涙を流す人もいました。アートなので感じ方は人それぞれですが、その反応を介在したスタッフが目の前で見られる。普段のお店ではなかなか直接お客さまの声を聞ける機会が少ないので、スタッフが感動しちゃうんですね。

初めはみんな、幕張メッセの展示会にならないように、秋葉原のメイド喫茶にならないように、とシュールさを出しながらどう世界観をつくっていくか、緊張感がありました。最後にお客さんに投げかける言葉もすべってしまうかもしれない。私はすべったときにスタッフの心が折れないか心配でしたよ(笑)。

反響が出てくるようになって、お店と同じようにスタッフ一人ひとりが自分なりに解釈をして表現してくれるようになり、いまはなんの心配もないですね。スタッフにも仕事の喜びを実感できるいい機会になったという意味でも手ごたえを感じます。

実は私はSoup Stock Tokyoができる前、三菱商事にいた1996年に、サラリーマンとして絵の個展を開催したんですが、そのときにもスープを出しているんです。その頃から、将来は作品としてスープを出したいと思っていたので、15年来の夢がかないました。

企業がアーティストになる時代

きっかけは、2014年にスマイルズ生活価値拡充研究所として食のプロジェクトに携わった「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」。そのときに主催者側が、アーティス覧にスマイルズ生活価値拡充研究所の名前を記載してくれていたんです。私自身、もともとアートをやりたいという気持ちがあったので、嬉しくて、来年は本当のアーティストとして作品を出す、と宣言しました。

初めはアート作品として宿泊施設をやりたいと思っていたんですが、主催者側が用意してくれた場所があまりに広くて立派で。これはしゃれにならない、アートではなく通年で事業としてやらなくちゃいけないな、と。それはまだ早いと思い、改めて作品の方向性を考えていました。

そんななか、デンソーさんとの出会いがあったんです。名古屋の会社に講演に伺ったときにロボットのデモを見せてもらって、すごい技術を見た!と興奮し、その夜の役員との会食で「一緒に現代アートをやりませんか」とお誘いしました(笑)。

それで、ある日の夜中にいまの作品のアイデアを突然思いついたんです。翌日、会社に行ってみんなに話したら評判が良かったので、これでいこう!と。

提供:スマイルズ

かたちにするまでは大変でしたけど、個人ではなく、企業としてアート作品をつくれたのはやっぱり面白かったですね。今回はデンソーさんの力を借りましたが、広告ではなくアートなので、作品であるロボットにロゴも入れていないんです。デンソーさんもスマイルズもアーティストですから。

デンソーウェーブの柵木充彦社長と私とゲストをお呼びして、作品の記者発表会も行ったんです。普通アーティストは記者発表会なんてやらないですよね。だから、そこは企業として、プレスリリースを出して会見を行いました。企業とアーティスト、いいとこどりです(笑)。

これまで何か新しいことをスタートするとき、「合理的な説明はできないんですけれど」と言っていましたが、いまはむしろ合理的な説明ができないほうが面白いことができると思っていますね。だからアートにも挑戦した。合理的なビジネスはあらかじめ答えが決められた算数を解いているようなもので、解のないものをスマイルズのみんなでかたちにしていくことが企業としてやりたいことなんです。

ギャップというものは、期待を下回ると怒りや落胆になりますが、期待を上回ると驚きや感動になる。私たちは期待を上回るギャップを生み出していきたと思っています。

人と人がつながり、世の中の体温をあげるメディア

今回は、まさに自分たちがメディアになって、媒介し表現をしたわけですが、これは普段の仕事のなかでも同じことなんです。たとえば、お店で出際のお客さまの背中に向かって「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と声をかける。私たちはこれを「再来のあいさつ」と呼んでいるんですが、たまにお客さまがピクッと気づいて軽くお辞儀をしながら出ていかれることがあるんです。

ハートを射抜くまではいかないかもしれないけど、ちょっとした人と人とのやりとりが生まれて体温があがる。私たちは事業を通してそういうことをしていきたいんですね。

逆に言うと、今回のアート作品も、私たちにとってはお店を出すことと同じなんです。作品を通じて50日間スープを出すということで、会場である廃校になった小学校の給食室の水質を確認して、スタッフは検便をして、保険もかけて、超過労働にならないように昼には必ず休憩をとって……。

私たちはアートに対してリスペクトを持っていますが、一方で企業としてのある種プライドも持っています。作品をつくって自己表現をして終わりではなくて、そのなかで日々お客さまと向き合っています。

やっぱり、私たちはお客さまとつながりたい。そういう「人と人とのやりとり」を媒介する企業(メディア)でありたいんです。

遠山 正道(とおやま・まさみち)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」のほか、「giraffe(ジラフ)」、「PASS THE BATON(パスザバトン)」「100本のスプーン」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。著書に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。