“安かろう、悪かろう”なオンライン授業は終わりにしよう。
予備校講師に技術より「芸術」が求められる理由

「学びエイド」の勝算

「私はインターネットを通じた授業の可能性を信じています。もともとは、東進ハイスクールの映像講師でしたから。ただ、予備校教師として直接生徒に教えることが多かったので、ネット教育の可能性についてなかなか実感が持てなかったんです。

そんななか、娘が中学3年生から不登校になったことが大きな転機となりました。みるみる状態が悪くなってしまって、高校は週1回登校で、普段はインターネットの授業を受けると卒業要件がクリアできる通信制に通うことになりました。

高校1年のときには半年ほど入院して――いまではすっかり良くなりましたが――その間にもインターネット授業を受けたおかげで進級できて、娘は卒業証書をもらうことができました。ICT教育に救われました。それがサービス立ち上げにつながる原体験のひとつです」

不登校で偏差値30台だった娘が早稲田に合格

9月2日、高校分野に特化した教育プラットフォーム「学びエイド」のベータ版がオープンした。1本5分ほどの動画が3000本以上あり、"鉄人"による授業を受講できる。利用は無料。「"安かろう、悪かろう"なオンライン教育ばかりが普及してはいけない」というのは、株式会社学びエイド代表の廣政愁一さん。冒頭のエピソードに加えて、立ち上げの理由がもうひとつある。

学びエイド代表の廣政愁一さん

「その娘には高校卒業後、1年間、河合塾に浪人させることにしたんです。中学3年生から高校2年生までほとんど学校に通っていなかったので、元気になってからまずは高校生活を過ごしてほしいとの思いで受験勉強は一切させませんでした。

当然、現役のときは大学に受からなかった。その当時は偏差値30台だったのですが、寮がある河合塾の京都校に通わせた結果、早稲田大学に入学することができました。自身が予備校講師をやっていたことを差し引いても、予備校や講師のすごさを改めて実感したことが立ち上げのきっかけになっています」

廣政さんは予備校教師を経て、学校内予備校「RGBサリヴァン」を経営していた。この会社は学校のなかで予備校を運営する事業を展開し、「リアルドラゴン桜」といわれていた。経営は順調だったものの、会社を後進に譲り、さらに多くの人に提供できるサービスを作ろうと思い立った。現在、インターネット授業やオンライン教育をおこなう事業者は数多くいるが、なぜいまこの分野に参入したのか。

「教師には一人ひとり、理想がある」

「インターネットを利用した講義は中途半端なものが多すぎます。自分であればちゃんとしたものを出せると思いました」という廣政さん。「中途半端」とはどういうことだろう。

「ひとつは、あくまでリアルの授業の『代替』になってしまっていること。リアルで受講できるならそっちのほうがいい。地方などに考慮した、リアルに対して仕方ないものとなっています。これには将来性を感じません。

もうひとつ、基本的に予備校の授業は運営本位のものになっています。90分の授業でも45分くらいの中身しかなかったりする。90分といえば映画の長さです。映画でもなかなかストーリー作りが大変なのに授業では本当に大変。

そこでいろいろな話を盛り込んだりしていきます。生徒は飽きてくるので、おもしろい話をしたり、途中で基礎的なことも混ぜてみたりして、なんとか90分にしている。これはどうかと思いますが、実際のところそうしない先生は不人気なんです」