法的安定性の軽視発言を謝罪した磯崎氏だが・・・
まっさきに責任を負うべきは安倍首相だ

佐藤優メルマガ インテリジェンスレポートより
〔PHOTO〕gettyimages

「礒崎陽輔首相補佐官発言と反知性主義」

【重要ポイント】
礒崎陽輔首相補佐官には確固たる思想や信念がない。この人は、自治官僚としては戦後民主主義的論理で、安倍首相の下では歴史修正主義に基づいて、時の権力を支えるテクノクラートの機能を果たしている。第一義的に責任を負うべきなのは、無思想なテクノクラートではなく、このような人物を首相補佐官に任命した安倍晋三首相だ。

【事実関係】
礒崎陽輔首相補佐官は7月27日、大分市で行われた講演で、憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案について、法的安定性を損なうとの批判があることに対して反論して、「考えないといけないのは、我が国を守るために必要な措置かどうかで、法的安定性は関係ない」と述べた。

【コメント】(抜粋)
1.―(1)
法的安定性とは、憲法や法律の解釈が権力者によって恣意的に変更されないことによって社会と国家の安定が保障されるという、民主主義の基本中の基本である考え方だ。

2.―(1)
礒崎氏は東大法学部を卒業し、旧自治省に入省したエリートだ。礒崎氏は官僚時代に『分かりやすい公用文の書き方』『分かりやすい法律・条例の書き方』(いずれも、ぎょうせい)という本を著している。両書を読むと、礒崎氏が戦後民主主義的な、まさに日本国憲法の価値観を持つ人であるという印象を受ける。

例えば、差別語、不快語について、礒崎氏はこう記している。

<「黒人兵」という表現そのものは差別ではないが、単に「米兵」と言えば足る場合など「黒人」を特に明らかにする必要のない文脈で用いれば、差別になり得る。(中略)「帰化」というのは法律用語であるが、朝廷への帰属を意味する言葉であることから、できるだけ用いずに「国籍取得」と言うのが良い。古代の「帰化人」は、「渡来人」とする。

(中略)「支那」という言葉も、公用文で用いてはならない。「支那」は、古代の「秦」の変化であり、英語の”China”と語源を同じくしている。したがって、言葉そのものが不快用語ではないが、中国の人たちに日本の侵略を思い出させるという配慮から、使わないこととされている。実際、中華人民共和国という正式国名があり、一般に「中国」という略称が使われている中で、あえて「支那」を使う必要はないであろう。なお、片仮名書きで「東シナ海」などと用いるのは、構わない。ちなみに、「満州」という言葉も用いず、「中国東北部」と呼ぶ。>(礒崎陽輔『分かりやすい公用文の書き方[増補]』ぎょうせい、2005年、118~119頁)

2.―(2)
自治官僚時代にこういうことを書いた人が、どうして「法的安定性は関係ない」というような乱暴な発言をするのだろうか。法的安定性が必要ないならば、政治は権力者の恣意的判断によって決まることになる。これでは法治主義ではなく専政政治だ。

礒崎氏の内心で安倍政権を守ることと日本の国益が一体化している。そのため、客観性や実証性を軽視もしくは無視し、自分が欲するように世界を理解するという「反知性主義」に、礒崎氏は足をすくわれてしまったのだ。

法的安定性を軽視する国家は、国際社会から信用されず、国内的基盤も強化されない。

・・・この続きは、佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol.066(2015年8月12日配信)に収録しています。

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