身につまされる老後破産〜「こんなはずでは」と嘆く前に読みたいルポ
【書評】NHKスペシャル取材班『老後破産』/評者 野村進(ノンフィクション作家)
〔PHOTO〕gettyimages

大学の学食で390円の定食を前に、この原稿の下書きをしている。

あえてこんなことをしているのは、本書に、近所の学食の400円ランチが月一度の、唯一の「自分に許している贅沢」だという老人の話が出てくるからだ。「温かいお味噌汁がついて、おしんこもついてくる」と「本当に嬉しそう」に言う八十すぎのお年寄りの顔を思い浮かべていたら、何やら涙がこみあげてきた。

お金がなくて病院に行くのを我慢する。食事は1日1回、しかも一食100円以内。実に300万人近くもの独居高齢者が、120万円未満の年収で、ぎりぎりの暮らしを余儀なくされている……。

元気なころはごく当たり前の生活をしていた人びとが、年を取るにつれ、いかにじわじわと経済的に追い詰められて、「老後破産」と呼ぶしかない窮状に陥るか。本書は、身につまされる実例をいくつもあげながら報告していく。「NHKスペシャル」での取材を元にした迫真のルポである。

「預金が少しずつ減っていくのはとっても怖いことなのよ。いつも何かに追われている気がして、夜も寝ることができないんです」(80代女性)

こうした経済面での不安から、お年寄りの多くが、物入りな冠婚葬祭を敬遠し、友人からのカラオケや旅行への誘いにも応じなくなる。もとより子どもやきょうだいの重荷にはなりたくない。かくして急速に社会とのつながりが失われていく。本当に怖いのは、この「つながりの貧困」なのだ。

ある調査では、正月三が日をひとりぼっちですごす独居高齢者は3人にひとりを数える。私自身、老人養護施設や重度認知症病棟で、誰も見舞いに来ない正月を送るお年寄りに何人出会ったことか。

むろん即効性の対策はない。ただし、現状に対応した社会保障制度の見直しは急務であろう。本書の登場人物たちのように、「こんな老後を予想できなかった」と嘆く前に、年を取り、体の自由がきかなくなった自分の姿をリアルに想像して、できうるかぎりの備えを物心両面でしておくしか当面の方策はあるまい。

のむら・すすむ/拓殖大教授。'97年『コリアン世界の旅』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞受賞。『解放老人』他

『週刊現代』2015年8月29日号より

『老後破産 長寿という悪夢』
著・NHKスペシャル取材班 新潮社/1300円(税別)

(※)執筆はNHKの鎌田靖(かまだ・やすし)、板垣淑子(いたがき・よしこ)、原拓也(はら・たくや)各氏による

「こんな老後を予想できなかった」――本書の事例は決して他人事ではない!
超高齢化社会を迎えた日本で、「老後破産」に陥る人々が増えている。普通に年金をもらい、自宅も所有、ある程度の預貯金・・・・・・それでも生活の破綻は防げない!なぜ起こるのか、実態はどうなっているのか、予防策は?驚くべき現状に肉薄した、衝撃のルポ!

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