政官財、裏社会も絡む巨大な利権の暗部を浮き彫りにする「あの男」の物語
【書評】黒木亮『ザ・原発所長』/評者 佐高信(評論家)
〔PHOTO〕gettyimages

この壮大にしてスリリングなノンフィクション・ノベルを読んで、まず最初に思うのは、いまは亡き吉田昌郎を思わせるこの原発所長なかりせば、この国はとんでもないことになっていただろうということである。

もちろん、「富士祥夫」というこの所長とて万能ではない。しかし、為すべきことを知り、何よりも責任ということを知っていた。

この富士の眼から、あの大震災と原発事故を見たために、原発の問題等を含めて、この国の暗部も明部も立体的に浮かび上がった。たとえば、首都電力と対立して遂には“国策逮捕”される福島県知事の佐藤栄佐久について、“東北の坂本竜馬”を自称する代議士がこう語る。

「原発は大きな利権だがらな。政官財だげでねぐって、裏の社会も関わってるしな。首都電力が下請け作業員一人あたりに払うのは十万円で、それが作業員のとごまでくると一万円ですよ。電力九社の設備投資は年間二兆円からある。これらみんなが利権ですよ。触れては駄目だな」

これを問題にしたから佐藤は逮捕されたということだろう。

今度、検察審査会によって事故当時の東京電力の首脳三人が起訴されることになったが、この原発のメーカーはゼネラル・エレクトリック(GE)である。

それについて、富士と部長が作中で信じられないような会話をかわす。

「しかし、よりによって、何でこんなレイアウト(設備の配置)にしたんですかね?」
「うちの会社が、GEの設計を丸呑みしたからだよ」

そして部長はこう付け加える。

「GEはアメリカの会社だから、竜巻やハリケーンは頭にあるけど、地震のことは詳しくない」

富士が頷くと、

「ましてや津波なんか、考えたこともない。向こうの原発は内陸部の大型河川沿いにあるからな」

と部長は続けた。

とてつもないエネルギーで暴走しかねない原発を改めて考えるための必読の力作である。

さたか・まこと/「週刊金曜日」編集委員、東北公益文科大学客員教授を務める。著書に『佐高信の昭和史』他多数

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『ザ・原発所長』〈上・下〉
黒木亮・著 朝日新聞出版/各1700円(税別)

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資源をめぐる太平洋戦争に敗れた反省から、戦後、日本は原子力の導入へと邁進する。同じ頃、大阪の商業地区に生まれた男は、東工大で原子力を専攻し、日本最大の電力会社に就職する。そこで彼を待ち受けていたのは、無限の原子力エネルギーという理想ではなく、トラブル続きの現場、コストカットの嵐が吹き荒れる本社、原子力という蜜に群がる政治家、官僚、ゼネコンと裏社会だった。“夢の平和エネルギー”の曙から黄昏までを駆け抜けた「運命の男」の生涯。

くろき・りょう/'57年生まれ。都市銀行、証券会社、総合商社勤務を経て作家に。『鉄のあけぼの』『法服の王国』他


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