TPP交渉が漂流して一番困るのは、利権を狙っていた農水族だ
『週刊現代』官々愕々より
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TPP漂流と「困った人たち」

TPP(環太平洋経済連携協定)の漂流。7月末の合意が流れ、8月中の合意も難しくなった。大統領選が本格化する米国の事情もあり、最終合意ができない可能性まででてきた。

この合意の遅れで、安倍政権が困っているという報道がある。TPP最終合意への農家の反発が来夏の参議院選挙に影響を与えないように、早めに合意して時間を空ける作戦に狂いが生じたからだというのだが、かなりピントはずれな見方である。

まず第一に、マスコミの報道には根本的な誤りがある。なぜなら、現在予想されている合意内容なら、農家から見てほとんどダメージはないからだ。

安倍政権誕生前の1ドル=80円の時に比べて、現在は120円を超える円安だから、日本に入ってくる輸入品はドル建てなら50%の関税を追加したのと同じだ。牛肉の関税を現行38・5%から9%程度にするというが、3年前に比べれば、まだ20%増税したのと同じ状況なのだ。しかも、関税引き下げには15年もかけるから、ほとんど影響はない。

豚肉は、現状、安い部位の肉の関税1kg482円を10年程度かけて50円に引き下げ、高い肉の関税4・3%は廃止するという。しかし、現在も、業者は高級部位と低級部位を組み合わせて輸入することで482円の高率関税を回避しており、実効的な関税率は4・5%でしかない。

為替レートのことも考えれば、こちらも楽勝である。

コメについても、農林水産省発表の'15年3月のコメの価格全銘柄平均は60㎏当たり1万1943円。一方、3月の米国産米の政府から民間への売渡価格は60kg当たり1万3483円と、国産米より高い。TPP合意で主食用米が7万t程度の輸入枠拡大となっても、国産米価格に与える影響は限られる。

ちなみに、国内のコメの需要は、'96年産米943万tから'13年産米は786万t、さらに'15年産米の予想は770万tと2割近く減少する見込みだ。こちらの方がはるかに深刻な問題だが、これはTPPとはまったく関係ない話だ。

いずれにしても、予想されるTPPの合意内容については農業団体も概ね了解だという。では、安倍政権が参院選への影響を怖れる本当の理由は何か。一言で言えば、7月中の最終合意を前提に、利権狙いのスケジュールが組まれていたからだ。

まず、7月に最終合意すれば、農業団体が、「日本農業は壊滅だ!」と大騒ぎする。ここで生きてくるのが、TPP交渉に入る前に農水省が出した、「TPPによる農業の打撃は3兆円」といういい加減な数字だ。

8月末の'16年度予算要求締め切りにあわせて、3兆円とは行かないものの、少なくとも数千億円の「TPP対策予算」の要求を出すはずだった。その後は、秋の臨時国会での条約批准などを受けて、年末の予算編成で農業予算の大盤振る舞いを決定。翌年3月までに予算を通して、4月からバラマキ開始。7月の参院選では、その恩恵を受けた農家の票を集めるというシナリオだ。

万一TPPが漂流すれば、農業予算バラマキの大義名分を失う。TPP合意先送りで一番困っているのは、実は農水族議員、農水省、農業団体なのである。

『週刊現代』2015年8月29日号より

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