アルピニスト・野口健さんが選ぶ「わが人生最高の10冊」
命を賭した冒険に、生きる意味を探して
野口健さん(アルピニスト)

僕は子供の頃は、落ちこぼれだったんです。イギリスの中高一貫の全寮制の学校に通っていたのですが、勉強ができない上に喧嘩っ早い。高1の6月に問題を起こして停学処分になりました。

ふらふらしているとき、偶然手に取ったのが『青春を山に賭けて』です。それまで僕は山に登ったこともなければ、山に関心があったわけでもない。著者の冒険家・植村直己さんのことも、名前を聞いたことがある程度でしたが、何かがピンと来た。この出会いが、その後の人生を決定づけました。

読んでみると、植村さんも落ちこぼれで、コンプレックスを克服するために世界中を放浪しながらコツコツと山を登っていくんです。大きな野心を抱いていたわけではない。地道な積み重ねの結果が日本人初のエベレスト登頂であり、世界初の五大陸最高峰登頂だった。

植村さんの生き方を知って、自分にも何かできることがあるのではないかと感じました。この本と出会った高1の冬に、僕は初めて山に登ったんです。追い詰められていた分、行動は早かった。

一方で、僕の中の冒険心に最初に火をつけたのは『サハラに死す』だったと思います。子供時代、エジプトに住んでいて砂漠が身近だったこともあり、中学生の時にふとこの本を手に取りました。

サハラ砂漠の単独横断に挑んで22歳で亡くなった上温湯隆の記録なのですが、しびれましたねぇ。冒険自体も壮絶なのですが、彼は、自分は何のために生きるのかと問いかけながら命を賭して冒険していくんです。常に葛藤している。当時、葛藤だらけだった僕は強く引き込まれました。

サハラ横断に一度失敗して、再挑戦する前に綴った文章はとくに凄い。〈冒険とは、可能性への信仰である〉。何度も紙に書き写して暗記していました。

本格的に登山をするようになり、大学進学後は山岳会に所属しました。ところが、19歳の僕には衝撃的だったんですが、毎年会員が死ぬんです。初めは、どう受け止めていいかわからなかった。

葬式に行くと、親御さんが悲しみに打ちひしがれている。その姿をじっと見ながら、俺が死んだら親父がこうなるのかと想像する。何のために命賭けで山に登るのかと考え込んでしまった。そんな時に読んだのが山際淳司さんの『みんな山が大好きだった』です。

この本が取り上げるのは、どれも亡くなった登山家たちの話です。僕の憧れだった長谷川恒男さん、そのライバルだった森田勝さん。皆、いきいきと生き、いきいきと死んでいく。

考えてみたら、命を賭けるって空恐ろしいほどの贅沢なんです。たった一つしかないものを賭けるわけですから。もちろん冒険で死んではいけないんだけれど、この本を読んで、とくに登山家にとっては、死は必ずしも不幸ではないと思えるようになりました。