『妻と飛んだ特攻兵』敗れてもなお、守るべきものがある。~大空に散った若き夫婦が遺したこの国へのメッセージ
谷藤徹夫・朝子夫妻【写真提供】谷藤家遺族

<どんなことがあっても、二度と徹夫さんとは離れたくない。あなたの特攻機に乗せてください。もしそれが叶わないのでしたら…あなたを見送った後に、自決いたします>

…十一機の特攻機は、一機ずつ滑走を開始した。そのとき特操二期生の堀江一郎少尉が一機を指さして叫んだ。

「あの飛行機に女が乗っているぞ!」

1945年8月19日、妻を、恋人を乗せて、満州の基地から大空へと飛び立った特攻兵たちがいた。戦争は終わったというのに、なぜ彼らは特攻機に乗ったのか。そしてなぜ女たちは、生きることを捨てて、愛する者とともに死ぬことを選んだのか。

16日、テレビ朝日で『戦後70年ドラマスぺシャル 妻と飛んだ特攻兵』(主演・成宮寛貴、堀北真希、夜9時~)が放送される。原作の「妻と飛んだ特攻兵 8・19満州、最後の特攻」(角川文庫刊)を執筆したノンフィクション作家の豊田正義氏が、この作品の秘話を明かす。

「満州に特攻隊があったのを知っていますか?」

昭和20年8月15日の玉音放送から4日後の8月19日、満州国で、日本陸軍の特攻隊員の夫と一緒に戦闘機に乗った女性がいた――この信じ難い史実を私が知ったのは、平成22年夏のことだ。

取材で知り合った元特攻隊員の老人から「満州に特攻隊があったのを知っていますか? そのうちの隊員のひとりはね、終戦直後に妻を特攻機に乗せて、夫婦一緒に体当たりしたんですよ」と聞いたのである。

私は衝撃を覚えると同時に、半信半疑だった。女性を軍用機に乗せることは、当時は、明確な軍紀違反であり、ましてや特攻機に夫婦で同乗することなど、ありえない話だと思ったからだ。

その老人からもらった唯一の手がかりは、妻を特攻機に乗せた隊員の苗字が「谷藤」で、故郷が青森の恐山の近くだということだけだった。少ない手がかり、取材できる人がいるのかという不安、最初はやるべきかどうか迷った。しかし、この事実を突き止めてみたいという衝動を抑えることができなかった。