「匿名」の誘拐犯vs.元警官
〜作家生活十周年と銘打つにふさわしいミステリ

【書評】薬丸岳『アノニマス・コール』/評者 村上貴史
〔PHOTO〕iStock

薬丸岳のデビュー作『天使のナイフ』は、選考委員に絶賛されて2005年に江戸川乱歩賞を獲得した作品だった。それからコンスタントに質の高いミステリを放ってきた彼が、作家生活十周年と銘打って世に送り出したのが、この『アノニマス・コール』である。

3年前に身に覚えのない罪で警察から放逐された真志。妻とも娘とも別れて暮らしていた彼に、無言の電話がかかってきた。もしかして娘の梓からか。そう感じた彼は、久しぶりに元妻の奈緒美に連絡を取る。梓の行方が判らなくなっていることが判明して程なく、彼女を誘拐したと告げる電話がかかってきた……。

社会問題を掘り下げつつ、謎解きやどんでん返しの趣向を備えた作品を放ってきた薬丸岳が手掛けた誘拐ミステリである。この分野では、天藤真『大誘拐』や岡嶋二人『99%の誘拐』をはじめとして、すでに数多くの名作が存在するが、本書もまた素晴らしい。

身代金の受け渡しを巡る駆け引きに手が込んでいるだけでなく、終盤に至るまで誘拐犯が徹頭徹尾“匿名”な点も魅力だ。そしてなにより、誘拐事件の被害者(つまり真志と奈緒美だ)と警察との関係に一ひねり加わっている点が秀逸だ。

元警察官として誘拐事件での警察の重要性を十二分に理解しているはずの真志なのに、何故頑なに警察を拒むのか。そこに本書のミステリとしての妙味がある。プロットが実によく練られていて嬉しくなる。

それと同時に本書は家族の物語――崩壊と再生の物語――でもある。真志と奈緒美を中心に、夫婦や親子といった関係が深く吟味されているのだ。また、仲間の物語でもある。真志を支援してくれる面々の活躍も読み逃せない一要素だ。

そしてそれらを全部ひっくるめて物語を締めくくる結末が抜群に鮮やかだ。ミステリとして意外性があり、家族のあり方についても読者に深く考えさせる。余情も良い。

そうした結末を含め、まさに作家生活十周年と銘打つに相応しい本書で、薬丸岳の魅力をたっぷりと堪能して戴きたい。

『週刊現代』2015年8月15・22日合併号より

『アノニマス・コール』
著者:薬丸岳 KADOKAWA:1600円(税別)

3年前に警察を辞め、家族も離れて暮らす真志に、娘を誘拐したと匿名電話がある。自力で誘拐犯を捕まえるため動き出すが、誘拐事件はやがて真志がすべてを失った原因となる過去の事件へとつながり・・・

やくまる・がく/'69年生まれ。'05年『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。『友罪』『神の子』他多数

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