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2015年08月19日(水) 二井將光

人類はいかにクスリを手に入れ、付き合ってきたか〜ゼロからわかるクスリのすべて

二井將光=編・著『薬学教室へようこそ いのちを守るクスリを知る旅』

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〔photo〕iStock

ゼロからわかるクスリのすべて

自然の恵みから始まったクスリについて理解し、私たちが出会うクスリのしくみ、創薬研究の過程や、高齢社会とクスリの問題について考えます。

医療に関わる薬剤師になるために何を学び、どうすればいいのか指南しながら、生物学や化学がいかに創薬に貢献しているか、またクスリが人類の生存にとっていかに大切かを解説。さまざまな例を紹介し、クスリについての正しい理解を深めていきます。

はじめに

 クスリ(薬)は私たちの生活の中にとけこんでいます。命を助けられた人もたくさんいます。動脈硬化のためにコレステロールや血圧のクスリを服用している人も多いでしょう。風邪薬や胃腸薬を服用したり、抗生物質の世話になることもあるでしょう。クスリを通して、知らず識らず私たちは薬学という幅広い学問の恩恵を受けているのです。

 クスリの始まりは、植物や動物に由来する物質(天然物)でした。歴史をひもとくと、いろいろな場面にクスリが登場します。古代のエジプト、ギリシャや中国には薬草の記録があります。日本では奈良時代に光明(こうみょう)皇后が施薬院を作りました。東大寺の正倉院には天平時代の「種々薬帳(しゅじゅやくちょう)」という記録とともに、生薬(しょうやく)と呼ばれている大黄(だいおう)や、甘草(かんぞう)といった天然物が保存されています(正倉院の宝物)。西洋の医学が渡来するよりも遥か昔から、日本にはクスリがあったのです。

 大航海時代に胡椒(こしょう)や桂皮(けいひ)、キナなどの植物がヨーロッパに伝わったことはよく知られています。一九世紀初頭になって、キナからキニーネというマラリアのクスリが取り出されました。

 そして江戸時代の末期、一八二三年にオランダ商館医師のシーボルトが、強心剤として知られていたジギタリスを、アルコールやエーテルとともに日本に持ってきました。これは西洋医学の渡来という大きな出来事でした。

 人類は数々の病気や疾患を経験してきましたが、その多くは微生物や細菌、ウイルスの感染によるものです。ルネサンスの花が開いたフィレンツェでは、一四世紀に黒死病の大流行で人口の三分の一が死亡しました。ロンドンでも同じ時期に人口が半減する流行がありました。じつはこうした感染症との闘いの中で目覚ましい進歩があったのは、二〇世紀になってからなのです。私たちは敵の正体(微生物やウイルス)を見破り、化学療法剤と言われている有機化合物や、微生物が作る抗生物質を手にしましたが、感染症の脅威は去っていません。いまだにインフルエンザに対する備えが必要ですし、二〇一四年に数千人におよぶ死者を出したエボラ出血熱との闘いは今も続いています。

 現代では糖尿病や成人病にも立ち向かわなくてはいけません。たくさんの有機化合物の中から、改良を加えたクスリができています。しかし、高齢化が加速する社会への備えができているとは言えません。現在もクスリや病気の研究が根気よく進められています。

 クスリが生まれるまでには、植物や天然物成分の分離、たくさんの化合物の探索と合成、細胞から細菌やウイルスにおよぶ生物学の研究があります。研究を通じてクスリの候補となる化合物を発見すると、改良し安全性を確認します。最終的には臨床試験(治験)が行われ、有効性が証明された後に、認可されてクスリになります。さらにヒトに投与する方法や、クスリの形(剤形)が検討され、工場において製造されたものが、新薬として治療に用いられます。

 私たちは病気にかかったとき、医師の診察を受け処方せんをもらいます。薬剤師によって適切なクスリが調剤された後、飲み方(服用方法)の説明を受け、クスリをもらいます。病院では注射や点滴としてクスリが投与されることもあります。このとき私たちは、研究室から薬局までの長い道を歩んできたクスリと出会います。クスリは人々の手に渡った後も、臨床試験を含めた使用成績の調査が行われています。

 このように見てくると、薬学は化学、物理学、生物学の応用科学と言えるでしょう。生物を知り、物理、化学を駆使し、創薬の研究を経てクスリを医療現場に届けます。基礎から応用そして実用に至る学問なのです。

 本書では自然の恵みから始まったクスリの意義を理解し、私たちが出会うクスリのしくみ、高齢社会とクスリの問題(未来)などについて考えます。創薬の研究の過程や、医療に関わる薬剤師が何をしているか、基礎的な生物学や化学がいかに創薬に貢献しているか、なども理解できるでしょう。これから「クスリを知る旅」に出発し、いろいろな面からクスリの世界を見ていきましょう。

 話題が多岐にわたりますので、目次からテーマを選んで読んでいただくのもよいでしょう。日々クスリを服用し、興味や疑問を持っている方は、第7章、第8章、第9章から。生物学や化学などに興味があり、あるいは薬学部を目指す高校生は、第9章、第10章から。クスリの歴史を知りたい方は、第2章、第3章、第5章から読み始めてはどうでしょうか。それぞれを読んだ後に第1章から読みたくなると思います。薬学の勉強を深めたい大学生や、研究者を目指している人は、最初から読んでみませんか。多くの方々に読んでいただきたいと思います。

 

目次
第1章 クスリとは、医薬品とは
第2章 クスリと薬学の始まり
第3章 クスリの創造(創薬)への道
第4章 クスリ(薬学)を支える考え方と身近な法律
第5章 感染症の過去と現在
第6章 長寿社会とクスリ
第7章 クスリを投与する
第8章 クスリの体内での働きと代謝
第9章 薬剤師はどんな人
第10章 薬学はどのように学ぶのか

 

編・著者 二井將光(ふたい・まさみつ)  
一九四〇年、東京都生まれ。東京大学薬学部卒業。薬学博士。大阪大学名誉教授、岩手医科大学名誉教授。東京大学薬学部助手、岡山大学薬学部教授、大阪大学産業科学研究所教授・所長、微生物化学研究センター(現:微生物化学研究所)特別研究員、岩手医科大学薬学教授・部長を歴任。日本薬学会および日本生化学会名誉会員。生物がエネルギーを生産し使うメカニズムの解明に尽力。日本薬学会賞、藤原賞、日本学士院賞など受賞多数。
 
『薬学教室へようこそ』
いのちを守るクスリを知る旅

二井將光=編・著

発行年月日: 2015/08/20
ページ数: 224
シリーズ通巻番号: B1931

定価:本体  860円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)

 

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