なぜ原爆投下による民間人大虐殺は罪に問われないのか?〜日本人に埋め込まれた「2つの思考停止」

【特別公開】赤坂真理『愛と暴力の戦後とその後』2
赤坂 真理 プロフィール

私たちは忘れすぎた

東京プリズン』を書く途上でわかったのは、しかしこの論点のずらし方こそが、東京裁判で勝者によって意図的に行われたことだということだった。それは私にとって、びっくり以上のものがあった。

一体それはどういう法廷だったのか、そもそも「法廷」だったのか、という気持ちだ。

天皇が当時、国家と戦争の最高指導者であったことは誰にも疑えない。右翼であっても、いや右翼であればなお、疑えない。だとしたら、誰でも心情はともあれ論理面では、最高指導者に責任があるということはわかるはずだ。その責任が問われなかったら、他のすべても免責されることになる。

天皇を訴追しないことは実は、最初からGHQが決めていたことだった。そんなことは、言われるまでもなく知っていたよという読者も多いだろうが、私はこの日本で普通の教育を受けて大学まで行って、それを最近まで知らなかったから、日本人の中の下くらいのごく普通の知的レベルの人間として、そのことを隠さずにいたいし、とにかく、驚いたのだ。しかも日本側は当初そのことを知らない。

天皇を訴追しないことになったその理由は、私の母に言わせれば「マッカーサーが昭和天皇の人柄に心を打たれたから」なのであるが、そしてこれもかなり流布した言説なのだが、残念ながらちょっといい小咄の域を出ないだろうと思う。

そう、天皇制を温存したほうがアメリカにメリットがあったのである。

ちなみに、アメリカ人の正義の旗印とされた「真珠湾だまし討ちしたんだから日本が悪い、『リメンバー・パールハーバー』」だけれど、当のGHQが主宰した極東国際軍事裁判(東京裁判)で、「だまし討ちではない」という判決が出ている。「だまし討ち」の論拠は、「宣戦布告から攻撃まで時間をおかなければならない」というハーグ条約の取り決めの中にある。だけれど、その条約に「どのくらい時間をおく」という記載がなく、「条約自体に構造欠陥がある」とみなされたため。

日本人は、覚えておかなければならないことも忘れすぎた。というより不問に付しすぎた。

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赤坂真理(あかさか まり)
1964年、東京生まれ。作家。1990年に別件で行ったバイト面接で、なぜかアート誌の編集長を任され、つとめた。編集長として働いているとき自分にも 原稿を発注しようと思い立ち、小説を書いて、95年に「起爆者」でデビュー。著書に『ヴァイブレータ』(講談社文庫)、『ヴォイセズ/ヴァニーユ/太陽の 涙』『ミューズ/コーリング』(ともに河出文庫)、『モテたい理由』(講談社現代新書)など。2012年に刊行した『東京プリズン』(河出書房新社)で毎 日出版文化賞・司馬遼太郎賞・紫式部文学賞を受賞。神話、秘教的世界、音楽、そして日々を味わうことを、愛している。