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【『流』直木賞受賞記念対談】伊集院静×東山彰良 
人間の「覚悟」と「運命」について語ろうか

伊集院氏は言う。「移民の子がことさら不幸と言うつもりはない。ただ何かをする時、人より覚悟が必要なだけだ」。ともに異国をルーツに持つ二人の作家が、人生、家族、そして小説について熱く語り合う。

真実と事実は違う

伊集院 受賞おめでとう。長く直木賞の選考をしていて、これだけ高い評価を受けた作品はなかなかありません。

東山 ありがとうございます。まだ身辺が落ち着かない感じです。

伊集院 私のように韓国にルーツを持つ作家はこれまでいましたが、台湾の人がなかなか出てこないと思っていたら、こういうかたちで読めるとは。一読者として読んでまず感じたのは幸福感。描かれているのは戦争とか、抗争とか、なかなかに大変な世界なんだけれども、読んでいるときの感覚は至福といってもいい……と言うと「そんなに幸せがないのか」と言われそうだけど。

東山 そんな(笑)。

伊集院 主人公のモデルは、お父さんですね。

東山 そうです。それと、祖父と。ずっと疎遠だったんですが、祖父が亡くなったときに親戚たちと話をしていて、若いときにあんなことがあった、こんなこともあった、という話を聞いて興味を持って……。祖父に直接は聞けなかったんですが、当時中国で存命だった祖父の兄弟分の人に話を聞きに行ったりしました。

伊集院 おじいさんが、日本軍の協力者の住む村を全滅させたことが書かれた碑が建っている、という場面から物語は始まる。

東山 ええ。僕の父は大陸で生まれて、5歳で台湾に逃れているんですが、どうしても自分のルーツを知りたいと、中国への渡航解禁の前にフランス経由で本土に渡ったんです。山東省で祖父の名の入った碑を見つけたとき、どこからかやってきた爺さんに「お前はこいつの孫か」と言われて怖くなったという話を聞いたので、冒頭に使いました。

伊集院 あれは象徴的だね。おそらく事実はもっと悲惨で、今でも相当な確執があるんだろうなと。

たまたま私の父と母も戦前に朝鮮半島から渡ってきた人たちで、私も朝鮮戦争の頃にスパイ容疑をかけられた私の母の弟を、父が助け出しに行く話を書いたんだけど……。

東山 お父やんとオジさん』('10年)ですね。あれはやっぱり本当の話だったんですか?

伊集院 そう。でも、父親の物語を書こうにも、当時父は密航をしたわけだから、その頃のことを話したがらなかった。

東山 うちのじいさんも、何も話さなかったです。

伊集院 そうですか。でも、本人の話を聞いていたら、もしかしたら書けなかったかもしれない。小説を書くということは、「真実」を見つける作業ではあるけれど、「事実」を書くことではない。こうあってほしい、こんな人間がいたら面白いだろうという物語を、作家が作り上げていくわけだ。

東山 そう思います。

伊集院 でも、「ああ、これは事実なんだろうな」という強さは、所々で感じましたね。あと、ユーモアも独特。「共産党が国民党の兵士を鍋で煮た」なんて、とても日本人作家には書けない(笑)。

東山 ハハハ。書いちゃいました。